灯月

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6/3/2025, 8:23:44 AM

「傘の中の秘密」

雨の日は、世界が少し静かになる。
足音が吸い込まれて、
景色が水彩画みたいにぼやけて、
まるで、自分の呼吸だけが確かに響いているような気がする。

今日はひとりで歩いているけれど、
傘の内側は不思議と温かい。
この小さい空間にだけ、
ほんの少しの誇りと秘密をしまっている。

誰にも見えないところで、
私は私の道を、静かに磨いてきた。
ひとつずつ、ていねいに。
派手ではないけれど、確かな手応えがある。

外から見れば、ただの雨宿りかもしれないけど、
この傘の中で私は、
自分の力と向き合っている。
頼るよりも信じるほうを選んだ、あの日から。

雨が上がる頃、きっとまた、
新しい空の下で歩き出せる。
今はそれで充分だ。

6/2/2025, 5:48:16 AM

「雨上がり」

静かに残る ぬかるんだ足跡
誰かが黙って 真実を拾い上げた
濡れたシャツに まだ冷たさが残るけど
あの嘘も たぶん優しさだった

争いは風にさらわれて
言い合った言葉さえ 霞んでいく
勝たなければ 守れなかったものと
負けたから 気づけたものとが 溶けあう

完璧を描いた絵は
雨に滲んで 輪郭を失った
けれど そこに浮かんだ色は
なぜだか 少しだけあたたかい

雲の切れ間から
ほんのすこし光が射す
戻れなくてもいい
この濡れた地面の上に 新しい一歩を描こう

5/31/2025, 6:18:04 AM

「まだ続く物語」

踏み出すべき一歩を
風が押し返す夜がある
愚かと言われても
まだ手放せない自由があった

けれど、刃は抜かれた
心の奥に宿る言葉が
ついに沈黙を破る

偽りの影は
光の中で形を失い
誰かの嘘も、私の嘘も
ようやく終わりを迎えた

そして物語は閉じない
まだ名もなきページが
風にめくられていく

迷いも、真実も、すべて抱いて
次の章へと進むだけ
これは終わりではない
ただ、静かに続いてく物語

”未完の風の章”
[風灯かざひ]