今日は、星が顔を出している。
そう思った瞬間、僕の足は外へ、遠くへ走り出していた。
何かから逃げるように、何かを追い求めるように
ただ無我夢中で。
風を切る音が、地面を蹴り出す足音が、風にざわめく木々の音が、全てが心地よく感じる。
疲れて息が苦しくなるが、それはまるで気分が昂ぶっている時のように、気持ちが高鳴っている時のようで不思議と辛さは感じない。
さぁ、どこまでも行こう。あの一番星に、手が届くまで。
────どこまでも。
ナイトミュージアム 『今は、これでいい。』
肺が、足が、息が今にも張り裂けそうだ
足を止めてしまいたい。
息を大きく吸いたい。
休みたい。
───否、これでいい。
苦しいけれど、息ができないほど辛いけれど、前には誰もいない。緊迫した、プレッシャーだらけのこの舞台にわたしが先頭で駆け抜けている。
そう実感している、見ているだけで少しだけ苦しさが和らぐ。
そしてーー今なら。
今なら、あの頃無理だと思っていたあの景色に手が届く気がしてーー。
タニノリベルテ『私のただ1つの我儘』
私はただ走って、走って、掴みたいものを、手に入れたいものをこの手に掴むために走る。
みんな、憧れだとかそんな大層なことを言うけど私は違う。ただそこにいる観客の視線を、声を、私に向けてほしいから。
ここにいるって気づいてほしいから、私を見てほしいから走るの。
それくらいの我儘、言ったっていいでしょう?
〈トウカイクリスタル〉
ボクは走りたいから走る。
でもいちばんは、憧れに追いつきたいから。
憧れを追い越して、あの人の叶えられなかった夢を叶えたいから。
“無敗の三冠”
それは三冠を取るだけでも困難とされている中、より困難と言われた高い壁。
ボクは、無理だと言われても、不可能だと言われても、あの人のように何度も挑戦して、いつか後輩や、同期たちに「ボクが最強だ」と胸を張って言えるようになりたい。
例え、その夢が叶えられなかったとしても、あの人のように。
〈セツナノキセキ〉
───奇跡は必ず起こるから
俺は小さい頃から脚が弱かった。それだけじゃなくて体も周りより弱く、よく体調を崩していた。
それでもデビューをし、クラシックまでダートで走った。ダート三冠という栄誉ももらい、シニアからは芝で走った。ダートとは違う感触。だが内にあったのはいつも、走りたい衝動だけだった。
純粋にレースを、競り合いを楽しむ気持ちだけが。
年度最後の大レースに出場が決まった秋、トレーニングの休憩の時に片足だけ立てなくなった。俺の足じゃなくなったように力が入らなかった。
でも最後に京都大賞典をラストランに選んだ。
テーピングを何重にも巻き、いつも以上にストレッチもした。
デビューの頃よりも俺を応援してくれる人がいる。ファンファーレが鳴り終えた今もその声は止まなかった。
残り400メートル。脚に力が入らなくなってきた。半バ身追い越されていた。
でも、ゴール板を駆け抜け、着順表を見たら俺が1着だった。1バ身差の勝利。
ゴールした後、ファンたちは俺に向かってこう言った。
ーー最後の奇跡をありがとう
ーー泡沫の夢を見せてくれてありがとう、と。
奇跡は起こる、俺が最初で最後に実感したことだ。