『ススキ』
ススキがこちらに手を振ります
孤独でした
退屈でした
……馬鹿にされ続けた人生でした
愛着のあった人形は
埃を被って落ちています
この手で掴んだ成功も
足枷となって邪魔をします
どうしようもありません
どうしようも無いんです
ずぅっとススキは手を振ります
……決して招いたりはしてくれません
『脳裏』
素晴らしいほど残酷で、悲しいほどにつまらない。
自分で価値があると思っていたい経験ほど、人は無意識にその時の感情を忘れまいとする。
例えそれが悍ましい記憶であり、早く忘れてしまいたいと理性では考えていても、その醜悪な経験が無価値なものであったと、簡単に切り捨てることが出来ない。
……ただの理不尽で終わらせたくないと、もう一人の自分が駄々をこねるのだ。
記憶はいつか薄れていき、織り込まれた感情もそれは違わず。
この原則を遅らせるため、人は記憶の中の感情に少しばかりの色を付け足す。
焼き付いた虚ろな情景は、自分の見えざる矜恃によってのみ創造される。
あぁ……本当につまらない。
『永遠に』
朝が来て
音楽が流れる
木の葉が揺らぎ
息を吸う
途切れ途切れのリズムで歩む
断続的に遠くまで
夜が来て
川が流れる
気持ちが揺らぎ
息を吐く
途切れ途切れのリズムで歩む
永続的に遠くまで
『暗がりの中で』 180
『もう目が慣れた』とあなたが言うから、照らす理由が無くなった。
『照らさなくても見える』と言うから、照らす苦労も無くなった。
窺い知れないあなたの表情。
……わざわざ照らす理由は如何に。
誰かに理由を伺い立てる。
……己の責務と矜恃は何処に?
猫が鳴く。
虫が鳴く。
風が鳴く。
後悔しても時は戻らず。
自業自得と──が泣く。
『どこまでも続く青い空』
雨の後は空気が澄んでいるという。
日が差す畦道で空を見上げた。
視界が全て青になる。
……手を伸ばす。
青がその手を透過する。
届かない。
掴めない。
嫌気が差して俯いたその先、足下の水溜まりにも青を見た。
……それを力の限り踏み付ける。
矮小な自分。
矮小な空。
爆ぜた青い情動は、留まることを知らず。
雨で冷えて湿った風が、どうでも良さそうに頬を掠めた。