『脳裏』
素晴らしいほど残酷で、悲しいほどにつまらない。
自分で価値があると思っていたい経験ほど、人は無意識にその時の感情を忘れまいとする。
例えそれが悍ましい記憶であり、早く忘れてしまいたいと理性では考えていても、その醜悪な経験が無価値なものであったと、簡単に切り捨てることが出来ない。
……ただの理不尽で終わらせたくないと、もう一人の自分が駄々をこねるのだ。
記憶はいつか薄れていき、織り込まれた感情もそれは違わず。
この原則を遅らせるため、人は記憶の中の感情に少しばかりの色を付け足す。
焼き付いた虚ろな情景は、自分の見えざる矜恃によってのみ創造される。
あぁ……本当につまらない。
11/9/2023, 4:52:27 PM