『君に会いたくて』
……目的地にはまだ着かない
──ガタンゴトン
規則的な振動が体を揺らし、ふと顔を上げる
後ろ窓から入り込んだ心地よい春の陽気に、少しうとうとしていたようだ
──ガタンゴトン
車内を見渡せばロングシートの座席に、数人のお年寄りがぽつぽつと座っている
"都会とは大違いだな"
……なんて考えるのは傲慢だろうか?
──ガタンゴトン
横長の車窓からは絶えず日差しが射し込み、車内を明るく照らす
その光の奥には田園風景が広がっており、遠くの雑木林が風に吹かれてはさわさわさわさわと揺れていた
そんな長閑な景色が映画のフィルムのように左から右へと流れては消えていく
──ガタンゴトン
……目を閉じる
暗闇が広がるそこに、君との思い出を描いていく
あんな事があった、こんな事があった
あんな表情があった、こんな感情があった
君との思い出は……どれも鮮やかだった
──ガタンゴトン
数分後、再び目を開き顔を上げると……外の景色に目を奪われた
そこには菜の花畑が広がっていた
晴天の下、陽の光を浴びた菜の花はまるで自ずから輝いているように美しい
──ガタンゴトン
君に似合った花だった
君が好きな花だった
君と愛した花だった
──ガタンゴトン
あぁ、今日は……
──ガタンゴトン
あぁ、今日はなんて……
──ガタンゴトン
「……絶好の自殺日和なんだ」
──ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン ガタンゴトン
……目的地にはまだ着かない
『閉ざされた日記』
2✕✕✕年〇〇月△△日(日曜日)
天気(晴れのち隕石)
今日で世界が滅亡するらしいので、今回は朝から日記を書いています。
……本来は一日の終わりに書くものですが、その頃には既に世界が終わっているでしょうから仕方がありませんね。
今だに信じられませんが、何か巨大な隕石が地球に衝突するみたいです。
今日はせっかくの日曜日だというのに空気の読めない隕石です、殴りつけてやりたいぐらいですよ。
私にスーパーマンのような力があれば良かったのに…… 遠い昔に絶滅した恐竜さんもこんな気持ちだったのでしょうか?
……そもそも恐竜さんはスーパーマンなんて知りませんね。
日記を書くのも今日が最後だと思えば何だか感慨深いものです。
最後はどんな言葉で飾りましょうか?
…………よし、決めました。
地球の皆様、良いしゅうまつを!
────パタン
『木枯らし』
烏が鳴いた
群れる
群れるは
烏合の衆
影が落ちた
伸びる
伸びるは
影法師
朱に染まるは俗世
常世たるは現世
時は逢魔
黄昏に現る誰そ彼
夕暮れ溶けた
あはれ木枯らし
『美しい』
(私は何がしたいんだろう?)
もう昼になる頃合いだというのに、いまだに家で惰眠を貪っている、本来は家にいても良い日ではない。
疲れたんだ。
やる気が起こらない、何も考えたくない、息をするのも億劫になった。
やるべき事は沢山あるのに、そんな事は分かってるのに、今の私はただ無意味に時が経つのを見過ごしていた。
生きながらにして死んでいる感覚、ゾンビという表現がこれ程似合う状態も無いだろう。
そんな状態でも、"今のままでは駄目だ"という意識は残っていたみたいだ。
罪悪感だか焦燥感だかにせっつかれて、緩慢とした動きで起き上がる。
……駄目だ、頭がクラクラとする。
おでこに手を当てるが熱は無い、ただただ気怠さが全身を蝕んでいるようだった。
その気持ちの悪さに抗いながら、とりあえず手元にあったリモコンのボタンを押し、テレビをつける。
……どうやら今日は皆既日食の日らしい。
その様子を写したライブ映像が、テレビ一面に流れている。
『もうそろそろですかね!』
アナウンサーらしき人の声が聞こえる。
『えぇ、もうじきだと思いますよ』
専門家らしき人がそれに応える。
そしてその数秒後……私は言葉を失った。
『出ましたっ!これが"ダイヤモンドリング"ですね、とっても綺麗ですっ!』
……違う。
『はい、その通りです。いやーそれにしても、本当に綺麗な"ダイヤモンドリング"ですね〜』
……違うよ。
『この"ダイヤモンドリング"、皆既日食の始まりと終わり、特に終わりにかけての僅かな時間しか見る事が出来ないそうです!』
これはそんなちゃちなもんじゃない。
『とても貴重な映像ですね、本当にダイヤをあしらった指輪みたいに綺麗ですよね〜』
これはそんな俗なもんじゃない。
これは……この輝きは……そんなんじゃないんだ。
あぁ……違う、違うんだよ。
私の頬を何かが伝う、そこで初めて自分が泣いている事に気が付いた。
この感情を言葉にする事なんて出来ない。
ただ、強いて言うのであれば。
この感情の一部分だけでも良いのであれば。
ただひたすらに……
「……美しい」
この感情を焼き付ける為に目を閉じる。
……瞼の裏の暗闇が、ゆらゆらゆらゆらと歪んだ気がした。
『この世界は』
物語であれ
絵画であれ
音楽であれ
どの作品にも世界があって
どの作品にも評価がある
私達が生きてるこの作品
評価は星3ぐらいだろう
名無しさん
2023/01/16 04:30
★★★☆☆ 3.0点
総評価件数 約80億人
《人によって好みが分かれそうな作品》
人によっては楽しめるんじゃないかな?
個人的には最初の期待値が高かったのもあって、少し残念な印象。
まぁ、一回ぐらいなら試しに体験してみても損は無いと思うよ。