『永遠に』
上を見る
自分よりも優れた人間達がいる
「あいつらは運が良い」
下を見る
自分よりも劣った人間達がいる
「あいつらは努力が足りない」
自分を見る
誰よりも報われない人間がいる
「自分は努力をしているのに運が悪い」
それはまるで合わせ鏡のように
何処までも何処までも続いていく
『理想郷』
ここは理想郷
何もかもが健全で、全てが平等な世界
ここに醜さは無い
ここに美しさは無い
ここに否定は無い
ここに肯定は無い
ここに不幸は無い
ここに幸せは無い
……ここに人間は居ない
残されていた古いビデオテープを再生する
ボサボサの髪をして、やつれた何かが映った
『……俺はずっと此処にいたぞ』
ボロボロのTシャツにヨレヨレのジーンズ
『俺はずっっと此処にいたんだぞっ!!』
血走った目でこちらを睨み
『こごにぃっ!!ずっどいだんだぁっっ!!』
握りしめた拳からは血が流れ
『……おれ……はぁ、ここにぃっ!!』
口からは砕かれた歯がこぼれ落ちる
『っうわぁあああっっ!わぁああっっ!!ぁああああっっ!!!────』
何かの叫喚だけがそこにあった
『懐かしく思うこと』
テレビを付ける
ファミコンを付ける
ゲームはドラゴンクエスト
コントローラーで操作する
テレビの中の自分が動く
セーブをする
ファミコンを切る
テレビを切る
寝て
起きて
また繰り返す
冒険の書があるかぎり
それは変わらず
懐かしく思うこともない
『もう一つの物語』
──物足りない。
あれも足りない、これも足りない、それも足りない、足りない、足りない、足りない。
スクリーンに映る物語に不満ばかりが溜まっていく
足りないものばかりの駄作だ。
誰だこんな映画を作った馬鹿者は、今どき小学生ですらもっとマシなものを作れる。
何なら私が同じタイトルで、もう一つ別の映画を作ってやっても良いぐらいだ。
そう心の中で吐き捨て、その場を立ち去ろうとするが身体が動かない
それならばと、目を閉じてしまう
しかし瞼の裏にまでその映画が流される始末
つまらない人間のつまらない物語。
主人公は最後、死ぬ時にこう言うのだろう。
『満たされない人生だった』
……あぁ、なんて在り来りな設定だ。
本当は分かっていた、解っていたはずだ。
この映画は私の人生だ、この駄作だけが私の人生なのだ。
人生に、もう一つの物語なんてものは……無い。
『暗がりの中で』
──コロナウイルス感染者が……ぐしゃっ
──人種差別による……ぐしゃっ
──性的マイノリティの権利は……ぐしゃっ
──大国同士の戦争に……ぐしゃっ
ぐしゃぐしゃ、ぐしゃっ
……今日は運が良い。
日課となっているゴミ捨て場の散策をしていたら、沢山の新聞が纏めて捨てられているのを見つけた。
新聞紙はよく燃える、暖を取るには最適だ。
人気のない橋下、一斗缶の中で燃え盛る炎に、丸めた新聞紙を放り込む
一つ、また一つ
最近だんだんと寒くなり、日が暮れるのも早くなってきた。
火をおこした時はまだ明るかった気がするが、今ではもう真っ暗だ。
……そうか、冬が来るのか。
ならば何かしらの対策をしなければ凍えてしまうだろう。
そういえば最近知り合った男が、刑務所で冬を越せたと自慢げに語っていた。
そこでは雨風を凌げるのは勿論、飯も出て、そして何より人権とやらがあるらしい。
刑務所の入り方ぐらいは知っている、犯罪を行なえばいいのだ。
善は急げと言うし、思い立ったら早めに行動した方が良いだろう。
ではさっそく、
「コンビニのお握りでも盗みに行こうか」
暗がりの中、無表情な人間の顔だけが揺れていた