『もう一つの物語』
──物足りない。
あれも足りない、これも足りない、それも足りない、足りない、足りない、足りない。
スクリーンに映る物語に不満ばかりが溜まっていく
足りないものばかりの駄作だ。
誰だこんな映画を作った馬鹿者は、今どき小学生ですらもっとマシなものを作れる。
何なら私が同じタイトルで、もう一つ別の映画を作ってやっても良いぐらいだ。
そう心の中で吐き捨て、その場を立ち去ろうとするが身体が動かない
それならばと、目を閉じてしまう
しかし瞼の裏にまでその映画が流される始末
つまらない人間のつまらない物語。
主人公は最後、死ぬ時にこう言うのだろう。
『満たされない人生だった』
……あぁ、なんて在り来りな設定だ。
本当は分かっていた、解っていたはずだ。
この映画は私の人生だ、この駄作だけが私の人生なのだ。
人生に、もう一つの物語なんてものは……無い。
10/29/2022, 12:45:10 PM