観測者

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6/7/2024, 9:28:45 AM

最悪

瓦礫に染まりゆく街に、独り私がいる。
コンクリートの隙間に生える僅かな草を踏みむしりながら進む先には、ひとつの影がある。
辿り着いたその場所に、求めるものがある。
真っ白な肌に、艶やかに波打つ髪。
そっと髪に触れる。次に頬をなでる。
なめらかな質感の肌は、精巧な人形を想起させる。現実とは思えない手触り。夢なら覚めればいい。
何度も肌に触れるうちに、後悔と悲哀と諦観と、言葉にならない感情が溢れて止まらなくなる。
この場所が瓦礫になる少し前、落下した瓦礫にあなたの脚が折られた時の、あの絶望に染まる表情が脳に焼き付いて離れない。
『私はいいから先に逃げなよ。大丈夫、あとから追いかけるから』
笑顔でそう言って、不穏な様子の建物から私を逃がした。
あなたは崩壊に巻き込まれたのだろうか。想像を巡らす度に苦しくなる。
いっそ運命を共にするべきだったのかもしれない。
せめて、私が弔わなければ。残酷に腐り落ちる前に。
私はライターの引き金を引けぬまま、眠るあなたをずっと眺めていたい。

6/5/2024, 3:32:03 PM

誰にも言えない秘密

独りの夜は、時々涙を流してしまう。
掃き溜めに溜まった不安と不満を洗い流すために。
あなたがいてくれさえしたら、こんなことを考える必要もないのだけれど。いないものは仕方ないかな。会いたいな。
この寂しさは寝て起きればいなくなっているから、人に見せることはできない。だから今日も独りで泣く。
頬を伝う涙は、なんだか甘酸っぱい味がした。

5/31/2024, 9:10:17 AM

終わりなき旅

朝日にふと目を覚ました。濃霧が景色を包みこんでいる。なぜここにいるのだろうか。
横を見ると、青年がもそもそとお肉を口にしている。どこか浮かない顔をしているようだ。
青年が誰なのか知る由もないが、彼を見ていると未練の念が湧き上がってくる。それが何なのかは知らない。
しばらくして青年は立ち上がり、近くに落ちている骸骨を撫でた。それからこの場所を出発したが、後ろ髪を引かれている様子だった。
そんな彼を追いかけた。霧に飲みこまれてしまう前に。
こうして、透明な僕は旅に出た。

5/29/2024, 12:07:30 PM

「ごめんね」

おもちゃかさなくて、ごめんね。
たたいちゃって、ごめんね。
かってにクレヨンもってって、ごめんね。
あんなこと言っちゃって、ごめんね。
ウソついてべつの子とあそんで、ごめんね。
ヘンな子と仲よくしちゃって、ごめんね。
自分のせいでころばせちゃって、ごめんね。
好きな人を本人にバラしちゃって、ごめんね。
背伸びしたせいでめいわくかけて、ごめんね。
好きだからっていじわるしちゃって、ごめんね。
テストであの子に負けて、ごめんね。
勝手な行動して、ごめんね。
入試に落ちて、ごめんね。
学年1位取れなくて、ごめんね。
期待に応えられなくて、ごめんね。
失望させて、ごめんね。
こんなに手をかけてもらっているのに、ごめんね。
ご飯残しちゃってごめんね。
逃げようとしてごめんね。
泣いてごめんね。
入試に落ちてごめんね。
人生壊してごめんね。
逃げてごめんね。
ごめんね.

5/28/2024, 2:49:01 PM

半袖

今日も私はのそのそと起床。学校に行く用意しないとね。
まずはパジャマを脱ぎ捨てて、爽やかな夏服に袖を通す。
階段をパタパタ駆け下りてリビングに出たら、朝食を詰めこんで洗面所へ。
顔を洗って、歯を磨いて、髪をまとめて。
仕上げに真っ白な日焼け止めを満遍なく広げる。うん、バッチリ!
お昼の焼きそばパンをスクバに放りこんで、スマホを携えたら準備完了。
「行ってきまーす!」
鮮やかな空色をたたえる、すっかり夏の顔をした青空。
ジリジリジリジリ、シャアシャアシャアシャア……とけたたましく聞こえてくるセミの鳴き声。
額に汗を光らせて、今日も青春を謳歌する。

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