“3月3日”
「春麗らかな…」なんてよくある決まり文句で始まる挨拶。今日は皆との最後の日。だから、この一瞬一瞬がとても尊くてかけがえのない時間なのだ。でも、私はなんだかほっとしてる。何事もなく終われたことに…。校長先生の挨拶。BGMの卒業ソング。そして、誰かのグスッと、鼻をすする音。そんな中で私はどこか他人事のように時間を過ごしていた。
“最後のホームルーム”
皆が席に着くのにあわせて席に着く。すると、
「あれ?中野、泣いてねえじゃん!なんでだよ~」
と、どこか間延びした声が振ってきた。まだ、立ったままの彼を見上げると、
「はは…!俺ダセえ。」
目を真っ赤にして、鼻をグスグスさせた隣の男子がたっていた。というか、まだ、目が潤んでいる。どう見たって泣きすぎ…。
「もう…、泣きすぎ…」
思わず呆れてしまう。だけど、そんな私に食いつくように、
「だってさ、俺けっこう皆が好きなんだよな~。だから、もっと、皆と一緒にいたかったよ。中野だって、最初、全然しゃべんねえって思ったけど、けっこう喋るし面白いしさ…。もっと、話したかったな。なあ…、ありがとな!」
といって、握手を求めていきた。彼の目は真剣そのもので、私を見つめている。手を差し出しながら、こちらこそとかえそうとしてうまくいえなかった…。なによ、移ったじゃない…。
一人一人からの感謝の言葉。そして、先生からの挨拶があって、あっさり終わったホームルームの後、じゃあなと、いつものように笑って手を振る彼に手を振りながら、そっと呟いた。
“ありがとね”
「あ、雨…」
と、落ちてきた滴を拾い集める。今日の気温は18℃。寒いこの地域のこの季節にはまだ、少し暑くい。集めた水滴はすぐに私の温度に溶けてしまう…。でも、なんだか手が冷たい。雨の冷たさが私にツとしみこんでくる…。
「寒いな…」
訳もないのに、声に出してみる。誰も答えてはくれないけど、なんとなく…ね。
“あー!虹だー”
明るい声が周囲に響く。道行く人が思わず微笑んでいる。
“トトト…”
幼稚園くらいの女の子が黄色いかっぱを揺らして走って行く。そして、精一杯手を伸ばした。
「もう、そんなに手を伸ばしたって届かないよ」
女の子のお母さんが優しく女の子に声をかけた。すると、女の子は、ぷう、とかわいらしくまん丸くほおを膨らまして、
「えー!お母さんの嘘つき!届くよ!なのかがもっと大きくなったら絶対届くもん!今は無理だけど、だからなのかはやく大きくなるもん!」
といった。
「え~、そうなの?そしたら、なの、その虹、お母さんにも分けてくれる? 」
と、女の子のお母さんはいたずらっぽく笑っている。
「うん!!!なのか、お母さんだけじゃなく皆にあげるの!だって皆が幸せなのがいいもん!」
「そっか、ありがとう」
と、女の子をなでながら二人歩いて行く。
「ふふ…」
さて、私も行こうかなー。