幼い頃から
執着心はあまり強くなかった
諦めるのも早かった
今泣いたカラスがもう笑ったと
よくからかわれた
いつまでも捨てられない
大切な物は
両親とあのひとの
形見の品だけで
それも最小限の数
死ぬ時には
何も持っていけないのだから
本当に大事なモノは
心に刻んでおけばいいという
この頃の心境
断捨離で
物欲も殆ど消えた
# いつまでも捨てられないもの(250)
誠実
勤勉
実直
剛毅
清廉
正直
温厚
柔和
寛大
あなたは
その背中で
常に
人としての生き方を
教えてくれました
そして
最後に教えてくれたのが
死への
旅立ち方でした
お父さん
今日も
あなたの
愛の大きさを
しみじみと思う
わたしです
あなたの
娘であることを
心から
誇らしく思う
わたしです
# 誇らしさ(249)
あなたは
知っているかしら
雨は
天使たちのお喋りで
雪は
女神の溜め息だということを
あなたは
知っているかしら
真珠は
貝の涙の雫で
波の音は
人魚の歌声だということを
あなたは
知っているかしら
太陽の子供は
ひまわり草で
月の恋人は
宵待草だということを
あなたは
知っていたかしら
わたしがあなたを
だれよりも愛していたことを
☆ 知っていたかしら (248)
送り火を焚いて
あなたを見送る
次に逢えるのは
萩の花が零れ
曼珠沙華が咲く
秋の彼岸
あなたを偲びながら
月日を数え
季節を重ね
諦めのなかで
悲しみや寂しさは
徐々に
薄められていくのだろう
送り火の煙は
空へと
立ちのぼり
あなたが
帰って
行く
☆ 送り火 (247)
花が開くように
密やかに
夜が訪れるとき
記憶された
わたしの中の過去が
ひとつづつ
小さなうねりとなり
打ち寄せる波となって
こころの奥に凍結させた
ひとつの想いを
静かに融解し
空虚な夜の海へと
誘います
遠いあの日
ガラスのこころで拒絶した
あなたの手のぬくもりも
あなたの淋しい嘆息も
今であれば
優しさだけで
包むこともできたでしょう…
想いは
深い海の中
もう
ひとすじの月明かりさえ
届きません
# 夜の海 (246)