#33 『誰よりも』
男「きみのために歌うね」
女「うれしい」
男「♪世界中の誰より“も”きっと~」
女「ちょっ、ちょっとストップ」
男「なに?」
女「『世界中の誰よりきっと』じゃない?」
男「いや、いいんだ」
女「なんで?」
男「“も”というのは、副助詞で同類・並列、そして強調の意味があるんだ。
ここでの“も”はもちろん強調の“も”。世界中の誰より、負けないくらいってことだよ。
それに、僕が伝えたいのは……」
女「ごめん、帰る」
#32 『10年後の私から届いた手紙』
私は時空間移動、つまりタイムトラベルを研究している。
そんな私に一通の手紙が届いた…。
差出人は私の名前だ。
「?」
私はとりあえず封を開けた。
『10年前の私へ…』
私は驚いた。
…有り得ない。
…そんなわけない
…絶対にそんなことはない!
これは誰かのイタズラに決まってる!
絶対に有り得ないんだ!
………私が手紙を書くなんて。
#31 『バレンタイン』
ピッ!
「141円になります」
100円玉と50円玉がトレイにのる。
「ありがとうございます」
小さな手の平にお釣りを手渡す。
『パッパー!バレータイィ』
外で待っていた父親にピョコピョコと駆け寄っていく。
……あぁ、俺も結婚したいなぁ
#30 『待ってて』
ここで待ってて、と言って、
マサルくんはどこかに行ってしまった。
僕は言われたとおり、いつも遊んでいる公園のブランコに揺られながら、待っていた。
オレンジ色だった空がいつの間にか深い藍色に変わっていった。
そろそろ家に帰らなきゃ。
ママが心配しちゃうな……。
でも僕が帰って、マサルくんが公園に戻ってきたらどうしよう。
約束を破ったら、マサルくん怒るかな、それとも悲しむかな。
僕は少しオレンジ色が残った空の上の三日月を眺めていた。
あの三日月がいなくなったら、帰ろう。
もしマサルくんが怒ったり、悲しんだりしたら、三日月が家に帰ったからって言い訳をしよう。
僕は三日月を眺めながら、大きくブランコを漕ぎだした。
#29 『伝えたい』
大好きなカオリさんと今日は初デート。
ニコニコ笑っいて、やっぱりカワイイな。
でも、思わず顔が強ばる。
僕は伝えられずにいた。
あの一言を。
カオリさんが素敵すぎだから。
僕の話を楽しそうに、すべて聞いてくれている。
だから、だから、あの一言が伝えられないんだ。
伝えたい…
ただこの楽しいひと時が全て壊れてしまいそうだ。
そんな僕の様子を察したのか、
目の前のカオリさんが、心配そうな顔をして
じっと見つめてくる。
…ステキ、素敵すぎる。
……もう我慢できない!
意を決してカオリさんに伝えた。
「トイレに行ってきます!」