Morita

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7/10/2024, 12:13:57 PM

目が覚めると、見知らぬ猫が腹の上に乗っていた。

「にゃー」

にゃーじゃないよ。
誰だお前は。

白地に黒のハチワレ。毛並みが良い。飼い猫だろうか。
猫ってあったかい。というか暑い。どいてほしい。

手でつかんで下そうとするが、びくともしない。もちもちの皮だけ伸びる。

おっと、首輪がある。緑色の首輪。探ってみると札がついている。だが、この角度からじゃ読めない。

「どこの子だよお」
「にゃー」

この声はハチワレじゃない。足元にいる三毛猫だ。
枕元からは白猫がおれの顔を覗きこみ、早くご飯をよこせと言わんばかり。

みんな、おれの猫じゃない。
どこかからやってきて、ご飯だけ食べて、気づいたらどこかへ行ってしまう。
今朝来たハチワレも、きっとそう。

「にゃー」
「分かったってば。分かったからどいて」


【お題:目が覚めると】

7/4/2024, 9:16:12 AM

この道の先に何があるんだろう。
立ち入り禁止の看板の前で、道の先へ目を凝らす。
道は雑木林へ続き、曲がりその先は見えない。

すると、がさりと音がして、道の向こうから人がやってくるではないか。こんな田舎には珍しい、痩せた若い青年である。薄鼠色の着物を着ている。

青年は私を見ると、ぱっと顔を輝かせた。

「いらっしゃい! どうぞこちらへ」

状況が飲み込めず、「ええと」と口ごもる。

「ここって、立ち入り禁止って……」

「うわ、なんだこれ」

看板を見て、青年は困ったように頭を掻いた。

「ははあ、なるほど。僕を困らせようとして誰かがイタズラしたんだな。見て」

青年がひっくり返した看板の裏には、‘’喫茶去さざれ 美味しい珈琲あります”と書かれていた。

「暑いでしょう。僕の店で休んで行きなよ」

この日の気温は36度の猛暑日。見知らぬ土地で歩き疲れた私は、ありがたく青年の言葉に甘えることにした。

「特製の水羊羹を作ってあるんだ。誰も来なくて困ってたよ」

青年の周りが妙に寒いこと、彼の影が不自然に揺れていること。きっと暑さで意識が朦朧としているからだろう。とにかく私は酷暑から逃れたかった。

【お題:この道の先に】

7/2/2024, 10:32:47 AM

ここに日差しはささない。だけどそれで良い。

木陰から広場を見る。太陽の下でボールを追いかけてはしゃぐ子供たち。それはまるで、スポットライトの当たる舞台のようで。

「あんたにもあんな時代があったんだよ」
母が横から口を出す。
「そうだよねえ」
今はもう、そこには出られないし、出たいとも思わない。

シャボン玉が飛んでくる。明るい広場から、風に乗って日陰の私のところへ。

まるで何かを伝えるように、
私の目の前でぱちんとはじけた。

【お題:日差し】

6/24/2024, 12:10:22 PM

「もう一年もこんなことやってるんだよなあ」

垂らした釣り糸は動かない。水面は同じ波紋を繰り返し描く。
昨日も今日も明日も、同じような日々を繰り返す僕らと似ている。


【お題:1年後】

6/23/2024, 12:21:26 PM

子供の頃は、何が好きだっただろう。
何に夢中になっていだろう。
思い出すにはあまりにも遠い過去になってしまった。

「いらっしゃいませ」

その青い花を見るまでは。

「気になります?」
「いえ」
「ずっと見てましたよね?」

若い女性店員にそう言われ、気まずさに目を逸らす。
娘と同じ歳くらいだろうか。

「この花、名前は何ですか」

小学校への通学路に咲いていたのと同じだ。小さな青い花をたくさん咲かせる。

初夏の日差し。クラスに馴染めなかった小学五年。

「アガパンサスですよ」



【お題:子供の頃は】

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