「ごめんね」
「いいよ」
「ホントごめん」
「いいってば」
「ホントにホントに……」
「分かったってば!」
振り返ると、そこにはずぶ濡れの友梨がいた。
【お題:「ごめんね」】
「あーちゃんあーちゃん知ってる?」
「なあに」
「駅前の餃子屋さんね、めっちゃ美味しいらしいよ! インスタで話題になっててさ」
街頭の明かりの下、リリコはスマホを慌ただしくタップする。タップしながら、
「」
【お題:また明日】
「アヤちゃん、そいつは無理だ」
「いやいや」
「いやいやじゃなくて」
なんてことを言っている間に、手際の良い現地スタッフにより、俺の体には次々にベルトが装着されていく。
アヤちゃんは天使のように笑って、
「私のこと好き?」
「好きだよ」
「大好き?」
「大好きだよ」
「じゃあできるよね」
「なんで!?」
高い高い吊り橋の上。
「言ったよね? 私のためなら何でもするって」
「言ったよ。そりゃあね。頑張って働くし、家事もするし。煙草だってやめたしさ。でもこれは」
俺は橋の飛び込み台から眼下を見る。
「あんまりだ」
高過ぎて下の渓流が霞んで見える。
「タクちゃんならできるよ! 小さい頃から夢だったんだ。バンジージャンプでプロポーズしてもらうの」
「アーユーオーケー?」
「ノンノンノン!」
「オーケーオーケー!」
スタッフは爽やかな笑みで親指を立てる。
「待って待ってここのヒモ緩くない!?」
「グットラック」
愛があれば一歩踏み出せるよ。
そんなノリで、スタッフに背中を押されて。
「あああああ!!!」
【お題:愛があれば何でもできる?】
めちゃめちゃ足が痛い。歩き疲れた。夜通し歩いていた。
なんでそんなことをしたのか。
終電を逃したからか。否。
誰かを探していたのか。否。
忘れたい恋があったのか。否。
理由はもっと簡単だ。歩きたくなった。それだけだ。なのに人には理解してもらえない。人はどこまで歩くことができるのか。試したくなったのだ。
これがマラソン大会なら沿道で声援もあったかもしれないが、勝手に一人で歩き出したものだから、すれ違う人に変な目で見られるのが関の山。
空には星が煌めく。行き交う車のヘッドライトが俺を照らしては通り過ぎていく。
ごめん、今日帰れないわ。
LINEでメッセージを送った時、家族の反応は冷たかった。馬鹿じゃないの。なんでそんなことを。何かあっても知らないからね。
海沿いの道を行く。左手側には街灯や民家の明かり、飲み屋の看板が光っている。右側は海。吸い込まれそうなほど真っ暗だ。光と闇。生と死。俺はその瀬戸際をただ歩き続ける。
自分を愛したかったのかもしれない。尋常でない距離を夜通し歩き通すことができたら、なんの取り柄もない自分を認められる気がして。
牧場ミルキーソフトクリーム1.5倍増量。
突然目の前に現れたのぼり旗。知らない街に佇む見慣れたコンビニ。
ここのソフトクリーム、美味しいんだよな。知ってる。1.5倍増量。駄目だ。ここで立ち止まったら、疲れ果てて二度と動けなくなる気がする。せっかくここまで来たのに。
目をつぶれ。俺は何も見ていない。牧場ミルキーソフトクリームなんてものはない。ストイックであれ。さすれば報われる。
「おーい」
呑気な声。振り向くと、ソフトクリームを食べている姉貴。
コンビニの駐車場には見慣れた車が停まっていて。
姉貴が車の中に向かって、
「あいついたよ」
運転席の窓が開き、親父が身を乗り出してこちらを向いた。不機嫌な顔で、乗れ、と手で合図している。
あともうちょっと歩いていたかったのに。そんな思いもあったが、気付けば車の方へ吸い寄せられていて。
お腹がぐるると鳴った。そういえば、お腹が空いていたっけ。
「アイス食べて良い?」
「勝手にしろ、馬鹿」
【お題:愛を叫ぶ。】
君と出逢って初めて、僕は自分が狼人間であると気付いたのだ。
【お題:君と出逢って】