「アヤちゃん、そいつは無理だ」
「いやいや」
「いやいやじゃなくて」
なんてことを言っている間に、手際の良い現地スタッフにより、俺の体には次々にベルトが装着されていく。
アヤちゃんは天使のように笑って、
「私のこと好き?」
「好きだよ」
「大好き?」
「大好きだよ」
「じゃあできるよね」
「なんで!?」
高い高い吊り橋の上。
「言ったよね? 私のためなら何でもするって」
「言ったよ。そりゃあね。頑張って働くし、家事もするし。煙草だってやめたしさ。でもこれは」
俺は橋の飛び込み台から眼下を見る。
「あんまりだ」
高過ぎて下の渓流が霞んで見える。
「タクちゃんならできるよ! 小さい頃から夢だったんだ。バンジージャンプでプロポーズしてもらうの」
「アーユーオーケー?」
「ノンノンノン!」
「オーケーオーケー!」
スタッフは爽やかな笑みで親指を立てる。
「待って待ってここのヒモ緩くない!?」
「グットラック」
愛があれば一歩踏み出せるよ。
そんなノリで、スタッフに背中を押されて。
「あああああ!!!」
【お題:愛があれば何でもできる?】
5/16/2024, 10:49:10 PM