モンテカナゴ語で「愛と平和」と書かれたTシャツを着た社長が、僕の派遣契約の更新をするつもりはない、と言った。
「うちも厳しいんでね。まあユウちゃんは他のところでもやれるっしょ」
モンテカナゴの海で一週間焼けた社長の肌は健康そのもので、首元にはネックレスをつけていた形跡がある。そこだけうっすら白いのだ。
「あの、入った時は6ヶ月の更新だって……」
まだ3ヶ月なのに。
「あーね。うちも色々状況が変わってね。じゃ、午後の仕事もよろしく」
社長はそう言って休憩室に戻って行った。僕は小さな工場の裏でひとり立ち尽くす。
サヌルール・ダ・ポンポンテ。
愛と平和。
ほんとにそんなもの、あるのかな。
社長からもらったモンテカナゴ土産のナッツバーを、僕はひとりでかじった。
やっぱりコンビニおにぎり一個じゃ、お昼は足りないや。
【お題:愛と平和】
後で書きたい
【お題:絆】
大好きな君に、贈るものがない。
実はあったんだけど食べちゃって、ケーキ。
ケーキは美味しい。抗えなかった。
だからそもそも贈り物なんてなかったことにして、週末ちょっといいレストランでご馳走してごまかそう、と思っていたけれど。
「食べたでしょ」
なぜだ。包装紙は見えないように捨ててお皿も片付けて、もちろん口元に生クリームなんてつけてないか確認して、君の帰りを出迎えたというのに。
「なにを?」
すっとぼけてみる。
「ケーキ」
駄目だ。全部お見通しだ。
【お題:大好きな君に】
新シリーズのレンジャーは全員ピンクだって? オダイリサマーとカンジョもピンクで? 見分けつきます?
ラーメンが食いたい。
アルコールで朦朧とした頭でぼんやり思った。
街路樹にもたれて夜風を感じていると、居酒屋から聞こえる喧騒も、雑居ビルの光る看板も、どこか他人事というか、別世界で起こっていることのように感じられた。
その世界の表層に、落ちきれないかさぶたみたいに、俺の存在がぺらりと乗っている。そんな感じ。
「先輩、大丈夫ですか」
振り返れば、後輩の山越である。
「ラーメン……」
「ラーメン?」
「ラーメンが食いたい」
「飲み過ぎですよ」
この業界の経験年数は俺より半分なのに、俺より仕事ができる、K大卒のエリート。
「水飲みます? ベンチ座りますか?」
嫌な顔ひとつせず仕事をこなし、誰に対しても物腰は柔らかで、非の打ちどころのないヤツ。社内で彼を嫌いな人間はいない。
俺以外は。
「ラーメンだって、言ってんだろ」
コイツがこの部署に来たから、俺は飛ばされたんだ。
「何で分かんないかなあ。豚骨の、こってりの」
「どうしたんですか。なんか、変ですよ」
俺はコイツが憎い。顔を見るたびに嫌気がさす。コイツさえいなければ。
「違う違う、醤油だ醤油! さっぱりの、それでいて背脂たっぷりの」
何が一番嫌いかって、コイツを憎んでしまう自分自身だ。何も悪くない後輩を、こんな風に困らせてしまう自分自身だ。
「やっぱり塩みそ坦々麺ニンニクカラメ……」
「先輩」
山越が俺の背中に触れる。
「気を落とさないでください。僕、分かってますから。先輩がこの部署の誰よりも頑張ってたこと」
「うるさい!」
思わず彼の手を払いのけてしまった。
戸惑うK大卒の顔なんて、見ものじゃないか、なんて考えてしまう自分がいる。
ごめん。ごめん。そんなつもりは。
「ラーメン……食いたいんだよ……」
俺は最低だ。街路樹にもたれてうずくまる。
再び山越の手が背中に触れる。優しく背中をさすられる。
懲りないヤツ。
これじゃ、どっちが年上だか分からない。
【お題:たった1つの希望】