公園の真ん中に、ビー玉が一粒落ちていました。冬晴れの日差しを反射してきらきらと光っています。
追いかけっこをしていた子供のひとりが知らずのうちに蹴り飛ばして、ビー玉は茂みへ転がっていきました。
そのビー玉は不思議なことに、光の差さない場所でもずっときらきら光り続けました。まるで太陽の美しさを忘れられない子供のように。
ところが茂みの中には先客がいました。一羽の真っ黒いカラスでした。冷たい木枯らしで吹き溜まった枯葉を集めて隠れていたのです。
カラスは輝くビー玉をつついて、
「おうおう、人ん家に転がり込んで堂々光るたあ良い度胸じゃねえか」
ビー玉は無邪気にころころ転がりながら、
「僕は明るい方が好きなんだ」
「そうかそうか、俺は大嫌いだ。明るいと自分の姿が見えちゃうじゃないか」
「見えたって良いじゃないか」
「俺は嫌なんだよ。さあ、あっち行った、行った」
カラスがつつくと、ビー玉は彼の周りをくるりと一周転がって、きゃっきゃと笑いました。
「からかうな。さっさと出てけ!」
「どうしようかな、もう少しここにいようかな」
厄介な客に、カラスはやれやれとため息をつくのでした。
私にとって幸せは、半月型のお好み焼き。
カリッカリに焼けた熱々のそれを、フライパンの上でヘラでふたつに切り分ける。
お好み焼き県の出身ではないけれど、天ぷら粉と千切りキャベツさえあればできるので、一人暮らしの時はよく作って食べていた。私のおはこ。
「できたよー」
「よっしゃ」
二つのお皿に、半月型のお好み焼きを盛り付ける。
ひとりの時は丸いまま食べるのが当たり前だったけど、その半月を見て思い出したのだ。実家でもこうして半月にして、私と兄とで分けて食べていたこと。
そして今は、彼氏とこうして分け合っている。
そうか。これが家族なんだ。
「はふはふ」
「ふはふは」
「うまっ」
「うまいね」
「ふふふ」
お好み焼きを頬張る彼氏の、正確には明日から夫になる人の横顔を見て、気持ちが和らいだ。
心の中にはまだ一抹の迷いがあった。結婚は怖いものだと思っていた。赤の他人と一緒に暮らすなんて未知だった。
私たちなら、上手くやっていけるのかな。
明日は満月が昇るってさ。
【満月をはんぶんこ(お題:幸せとは)】
お題:日の出
初日の出を拝みに来た人たちが目にしたのは、黒い太陽だった。
こんなはずじゃなかった。年に一度家族が揃って、華やかなおせちを囲んで、今年も宜しくね、なんて挨拶を交わして。
明けましておめでとう、が言えなくなった。
おめでとうなんて言えなくなった。
得体の知れないこの新しい年を、私たちはどう受け入れれば良いのだろう。
【今年の抱負】
抱負ってなんだ。目標とは違うのか。
負けを抱える? 意味としては勝ちに行くイメージだけど。新年早々「負ける」という言葉を使うのは面白い。「するめ」を「あたりめ」というのと逆だ。
響きはかわいい。はふはふって感じ。無駄に言いたくなるよね。ほーふ。ほーぷ!?Hope…つまり希望…そんなわけあるか。
ぐーぐる先生に聞いてみよう。
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「負」は、「負う」から転じて「頼む。 頼みにすること」の意味。 「抱負」で、「心に頼みとすることを思う。 その思い」を意味し、意味が狭まって「心中に抱く考え。
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とのこと。へえー。
「目標!」とか「絶対勝ちに行くぜ!」的な考えよりも謙虚なんだね。
目標という旗を遠くに立てて、そこに向かって「うおーっ」と走りだすというよりは、その旗を心の支えとして、杖のように自分の歩みを支えてくれるものなんだと思う。
あーいいね。好きかも、抱負。
私の今年の抱負は、小説もエッセイを含めて、とにかく書き続けることです。
【チョコ初め(お題:新年)】
カレンダーを新しくして、百均で買った鏡餅なんて飾っちゃって、表向きはお正月をしているが、実は机の引き出しには去年のアドベントカレンダーが残っている。
12月1日から始まって、一日一粒ずつチョコレートが食べられる。しかしチョコの食べ過ぎでクリスマス直前にニキビができてしまい、それきり食べなくなって年が明けてしまった。
よっぽど食べたかったけど。
昔から何よりもチョコレートが好きだったから、貧乏大学生には高級すぎる一万円もするこんなものを勢いで買っちゃって。
買った時は、今年も当たり前のように独りで過ごすものだと思っていたから。
でも、初めて付き合った彼と、初めてのクリスマスの時に、鼻の頭にニキビができて真っ赤なお鼻のトナカイさんになるなんて嫌だったから。
そして今、正月早々私の家へ遊びに来た彼に、しまっておいたそれを発見されてしまって、わけを話したところ。
「いやあお恥ずかしい。そのままそっとしておいて」
「食べないの?」
「うーん」
「またニキビできるから?」
「まあ、ね」
「残り何個?」
私は指を4本立てた。
「じゃあ、一緒に食べてもいい?」
「全部あげるよ」
「好きなんでしょ?」
まっすぐ見つめられて、どきっとしてしまう。
そりゃ、チョコレートが一番好きだったよ。あなたと付き合う前までは。
彼はチョコを一粒取り出し、私の口元に差し出した。
「これならどう?」
あああ。
この人はもう、こういうことをするんだから。
ままよ、と私は彼の指からチョコレートをついばんだ。