3. たかが石すら投げられない 愚か者にすらなりきれない
“本当は醜くて汚いくせに必死に取り繕ってばかりいる
愚かな貴方にはある昔話をしてあげましょう“
これは、ここよりずっと遠いお国のお話だ。
その当時ある重大な罪を犯した女は
善良な市民らによってイエス様の元に連れられた。
彼らは口々に言うこの女を罰してくださいと。
野次が飛び交う。声量は増してく。なのにイエス様が口を開くだけで波のように静まりかえる。簡単な人達だ。
そして、イエス様は静かに言った
「もしこの中で自分の人生において罪を犯したことがないと言うものは彼女に石を投げなさい」と。静かに響いたイエス様の声はきっと、市民ら全員の耳にちゃんと届いてたはずだ。
それなのに彼らの足元に転がった石は微かに揺れるだけ、
彼女に投げられる事はなかった。
そう、誰も投げなかった。正しくは投げられなかった。
人間誰しも罪を犯している。
人を断罪する権利など、さらさらないのだ。
もし彼女を断罪できる人がいるとするのなら
それは言わずもがな、ただ1人なのだろう。
と、ここまでが教訓。
けど、もし、例えば私がこの昔話にいたのなら私は彼女に喜んで石を投げつけよう。もう罪を犯しているのなら、ここでの嘘もまたこれまでと変わらないのだから。
ただでさえレッテルが消えないのだから事実は尚更。
そしてきっと愚かな者はまた愚行を繰り返す。
それをきっと影で笑いながら避難するのが貴方なのだろう?
その言葉を聞いて愚行を繰り返すのがきっと何も持ってない私なのだろう。ただ幸いなことにこの昔話に貴方は居ない。
そしてまた私という有り体ばかり気にした嫌な奴もいない
もし、過去に戻れるのなら?それがはるか昔でもいいのなら。
当時そこにいた誰かとして笑って石を投げつけよう。顔が潰れるまで何度も何度も、イエス様にやらされたとでも言おうか。
けど結局のところ残念なことにここは昔でもなんでもない。
いくら昔に貴方が居ようが居まいが関係ないくらい今でしかない。目の前では愛嬌で成り上がったヒロインが演説を繰り返している。かつては人を虐げ笑う醜い女のくせに。
演説も終盤、隣の人が手を叩き賞賛の声をあげる。
その賞賛は波紋を広げて会場が熱量で湧く。
さて、足元には石がある。中くらいの石だ。人に投げるにはうってつけだろう。そんな石が私の足元を転がっている。のに
おかしいな。私は拍手をしている。私は賞賛の声を送っている
結局はそういうことか。
2. 飛んで火に入る夢想家は、飛んで彼追う矛盾家と
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▼ You've been searching for a long time
君はずっと探してる。
▼ It's something that doesn't exist in this world
この世界に無いものを。
▼ How long will you search for?
いつまでそうしてるつもりなんだい?
“この世界には本当の愛というものはさらさらない”
とある変わった科学者が思考実験を繰り返して証明した稀代の発見だ。それまではあたかもそこに本当の愛があるかのように命が生まれ命が奪われた。人々は確かに愛を求めていたが求める一方だった。愛を求めた故に生まれた「建前の愛」は払拭されて、いまや、恋人の存在意義はステータスと定義された。
より可愛い子と付き合うことによって見込まれたハロー効果。
より賢い子、より穏やかな子、より面白い子、という具合だ。
それこそ結婚をするという事実だってそれを満たすのだから。
建前に騙されて結婚できない者はおおいに救われたことだろう。運命をわざわざ求めることの不必要性をこぞって証明してくれたものだから。夫婦喧嘩も離婚もこの世界では減少傾向にある。それもこれも最初の仮説を出した王様のおかげだ。
愛がいかに幻想でそれを求めるのがいかに愚かで滑稽か
今や全国民が常識として知っている。
だからこのゲームの攻略こそ不可能だ。昔のインディーズゲームなんて愚かで極まりない。プレイヤーに愛を探させるなんて
あまりに屈辱的で可哀想だ。
ということでこのゲームの販売は禁止されたはずだ。
そして今あるデータは国際的な技術導入によって書き換えられた。だから何度も言うようだがこのゲームの攻略は不可能だ。
例えどれだけ攻略法を覚えていようと、だってそれは、
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1. 所詮、朝焼けを這う毒蛇だ
これは、愛の話だ。紛れもなく本当に。だってそこに愛があったから。それは誰がなんて言おうと愛の話だ。
ただ愛の話がハッピーエンドなんて言う決まり事がある訳でも無いから私は早々にして彼の部屋で人生を終えた。
人類の中でも美しい死に様だっただろう。
朝日が覗いたまだ薄暗い寝室で、彼が「またいつか」と泣きそうな顔をしていたのだけは鮮明に覚えている。
「またいつか。」
なんて言って震える手で注射の針を進めてく。
懇切丁寧にベットに寝かせられて殺される私は反抗なんかサラサラする気がない。だってこれは愛なんだってこの柔らかい手つきに触れた私だけが知っている。注射針から流れ込むそれは毒であって毒じゃない。愛。愛なんだって、
けど、悲しいのも事実だ。彼と私の涙がぐちゃぐちゃになって私の視界はぼやけてく。彼の嗚咽がまた冷たい寝室に響く。
“響いてたのに“
悲しい愛の鳴き声は次第に笑い声に変わって、私を抱きしめた実は彼に抱きしめられたのは初めてだった。最初で最後、そんなのも私の意識があるうちの話なんだろうけど。
ただ今だけはこの体温に溺れてたいなんて馬鹿なこと思った。
こんな愛にでも溺れてたいと思った。彼の言う通りまたいつか会えるならきっと私はこの地獄にまたも身を投げるのだろう
彼の私を抱きしめる手をそっと離れて、彼の笑い声も消えた。
今度は頬に鈍い痛みを感じた。何度も何度も次は頭を溝落を。
こんな惨状の最中、いつもの彼に戻ったと安心出来るのは世界でもきっと私だけだ。
狂った喜怒哀楽を囲ったこの部屋に笑顔でいられる私だけだ。彼との間にただ1つ愛がある私だけだ。
残った注射針を私は力の入らない手で必死に握ってる。
そうだよ、またいつか会うんだもんね。大丈夫。
「ねぇ、またいつか。」
私は細く白い彼の手に腕を絡めた。