【私を見てくれるのは】
………さみしい。
雨と、地面だけが、私を認識している。⸺あ…服と、空気も、そうかな。
そう考えると、ちょっとだけ、気分が上がる。
ちょっとだけ、なんだけどさ。
車が走り去る。私の身体をすり抜けて。
私、何時になったら……この透明化を、制御出来る様になるのかな。人や人が触れているものから、干渉されなくなる、透明化を。
雨音だけが、私を慰めてくれている。
【ティースプーン一匙】
「憧れ」って、誰もが持てるモノだと思いませんか?
このお店は、そんな「憧れ」を、”ティースプーン一匙”だけ、みせる場所でございます。
例えば、『星空のドレスを持ちたい』という、憧れがあったとします。私共は、夜空から星の光を、ティースプーン一匙だけ掬い、ドレス全体にふりかけます。
⸺…えぇ、はい。確かに、本来の憧れとは、程遠いでしょう。だから、”ティースプーン一匙”だけなのです。
そんな、淡い夢でも叶えたいのでしたら、私共、”夢見る少女の魔法店”へ、ご来店下さいませ。
【可哀想に…】
「ちょ、まっ…て、ひっぱ、んないでよ!?」
「………」
「ちょっと、聞いてんの!?」
「……騒ぐな」
「なんっ…で、走んっ、のよっ!?」
「追われてる」
「はぁ!?だからって、見ず知らずの他人引っ張るとかお人好しなの!?」
「いや、違うが」
「はいぃ!?じゃあ何なのよ?!」
「囮だ」
「え…?ちょ、まっ」
「じゃあな小娘」
「待ちなさ⸺ちょ、誰よアンタたち!離しなさいよ!私は無関係よ!!!」
【思い出すとき大抵こんな感じ】
⸺バシャバシャバシャ
うーん…なんっだっけなぁ……。
⸺バシャーン!バシャーン!
アレじゃなくて……こうでもなくて…。
⸺ザバザバザバッ!
……えぇい五月蝿い!!!
誰だよ私の記憶の中を海の如く泳いでる輩は!!!!
『⸺私ね、一つだけ叶えたい願いがあるの』
そんな言葉を初めて聞いた時のことは覚えている。
だが私は、彼女の叶えたい願いを……忘れてしまった。
「おい竜神ユース!お前は、一つだけなら何でも叶えるんだろう?」
「あぁ、そうだ。其方は何を願うのだ?」
あぁ、また願いを持った者が私の元に訪れた。…此度は一体、どの様な願いを叶えさせるのだろうな。
「俺の願いはただ一つ…⸺俺様の師匠になれ、竜神ユース!」
「……は?」
「俺様は神なのだが、ほんの千年前に生まれたばかりの赤子同然な上、俺様自身の権能を持っていない。だからこそ、生まれはただの竜人でありながら、己が努力で神の座に辿り着いたお前の教えを請いたい!⸺さぁ願いを言ったぞ!叶えろ!」
……はは。馬鹿だ。バカだ、コイツ。でも、面白い。
あぁ、そうだ。欲に塗れた願いを叶えることより、この願いを叶える方が面白いことは、今私の前にいるバカでも分かるだろう。
「いいだろう。その願い、叶えさせてやる」
「よぉっしゃ!!!俺様はガベルだ!竜神ユース…いや、師匠!これからよろしく頼む!」
「…ふふっ。よろしくな、ガベル」
【その願いの果ては彼らに何をもたらすのか】