「…ぁー、えっと。あの」
「何か?」
「先生、正直にお答えください。転移魔法失敗しましたよね?」
「いやいやそんなまさかまさか……はは()」
「先生ほど高名な魔法使いがまさか…⸺壁にハマるのが成功と言い張るんですか?」
「………いやぁ。失敗、しちゃいましたね♪」
「楽しまないでください!!!どうするんですか!?今の私ら、師弟揃って城壁に上半身だけ出てる大マヌケですよ!?宮廷からのお仕事の時間までに出られる保証は無いんですよ!!!」
「……はは♪」
「だから、楽しむなぁ!!!」
【マヌケな宮廷所属魔法使いとして、数日間国の笑い話のタネにされたらしい】
ココロはわからない。
どうして目から水が出てくるの?
どうしてココロにそんな顔をするの?
どうしてココロは、こんなにイタイの?
ココロに刺されて、クルシイはずなのに。ニクイはずなのに。ココロのことを、抱きしめるのはなんでなの?
「⸺どれだけ時間が経っても。どんなに姿が変わっても。母親が自分の子供を間違えることはないさ……おかえりなさい、心」
……なんで、ココロの声は、出ないの?
【変わらない愛と変わる現実】
「⸺大丈夫か?」
「……ぅん」
「そうか」
いつもこうだ。いつも君に背負われて宿へと向かう。
情けないなぁ…ボク。
「お前は弱いんだから、オレに全部任せればいいんだよ」
ダメだよ…王様から勇者と認められたのは、ボクだから。ボクが頑張らないと。
「まぁ、リオがやりたいなら、何時でも手伝うからな?」
「うん、ありがとう…カナン」
あぁ…本当に情けないよ。
カナンはボクが居なければ今頃、いい旦那さんに嫁いで、子供を背負っていてもおかしくないのに。ボクが背負われているなんて……本当、君の背中は頼もしすぎるよ。
【カナンはTS転せ(((殴】
君は会うたび姿が変わる。
服装も、身長も、年齢も、声も、性別も。
いつも別れ際に聞く。本当の君はこの姿なのか、と。
いつも君はこう答える。今見てるのが自分の姿だ、と。
⸺私は、”本当”の君を知りたいんだけどな…。
◆◇◆◇◆
「奏叶様、いつも弊社の人材派遣サービスをご利用いただき、ありがとうございます」
「ん〜、いいっていいって。あの面白い玩具相手なら、何時でも新人さんの練習に使ってよ」
「しかし奏叶様、あの方は親友ではないのですか?」
「うん。だってアイツ、別人をボクだと認識する馬鹿だもん。良くて長く遊べるタイプの玩具だよw」
「そうですか……⸺知らなかったなぁ。でも、君も知らなかったでしょ?私の実家と、私の趣味変装、特技演技」
「………え?」
【だって、気になる相手は徹底的に調べろって、お婆ちゃんが言ってたから…】
北東の洞窟に、火竜の番いが住み始めた。しかも、子育てを始めるようで、二匹の竜が代わる代わる食事を摂りに行ったり、巣の材料に使う用であろう大木を運んだりしている。
北東の洞窟に住み始めた二匹の竜の情報は、国中をかけ巡った。多くの国民たちは、神獣と敬う、魔法の如き力を用いて火を扱う火竜が国に住み始めたことに歓喜し、毎夜北東に向かって祈りを捧げてから就寝している。
しかし、一部の上流階級の人間たちの反応は違った。
その理由は、北東の洞窟がこの国唯一の、氷の採取場だったからだ。
ある騎士は、酒に入れる氷が無くなったことに苛立ち、訓練でも刃入りの剣を使うようになった。
ある公爵夫人は、氷を使った良い美容法があったのに…と、派閥の夫人たちに愚痴をした。
ある王子は、大好物の氷菓が食べられなくなったことで、元々の我儘放題が、更に悪化した。
⸺気づいていない者もいるかもしれないが、この話の世界では、人間は魔法が使えない。まぁ、特に必要性の無い情報だがな。さて、ここで質問だ。”この国”は、幸せな国だと言える?………まぁ、大概の回答は概ね想定通りだろうがね。
【氷の使い道って意外に思いつかない…】