「……辞めたいなぁ、この仕事」
いやだってね、”アイ”って名前の液体をガラス瓶に注ぐ仕事ダヨ?なんかバカが速攻で考えたみたいなクソな仕事なんだけど、マジで辞めたい。
『無哀 届歌(むあい とどか)、本日のノルマまで37本です。いつも通りの進捗ですね、無駄口を叩く暇があったら手を動かしなさい』
そして辞めたい理由の一番はこのクソ上司だ。会社全体がこんなシステムだから、この会社辞めたい。
『C班への業務連絡です。本日のC班のノルマ達成者は1人です。まだまだですねぇ……では、本日のC班の終業時間は3時にしましょうか』
………えっ?!
『冗談です。17時にノルマが終わっていれば、本日は帰宅してもらって大丈夫ですよ』
⸺珍しっ!?!?!?
◆◇◆◇◆
「今日のカレーは特別ウマイな。隠し味?」
「あら、気付いたのね。そうなの、”アイ”を注いだの♪」
「へぇ…ありがと」
「お礼はいらないよ〜!」
【需要はあるんです、えぇ】
右を向くと、白。
左を向くと、黒。
正面を向くと、黒と白の真っ直ぐな境界線⸺と、このほぼ何もない空間に似つかわしくない、木製の看板。
『 光と闇
君はどちらを選択する? 』
⸺転生オプションを選べたから、ここに来たんだが…これ人によって解釈変わると思うのだが???
「けどま、分かりきったことだ。オレはどっちつかずの中立で平々凡々が良いからな……今こうやって立っている場所、オレはこの選択をする」
突然、上から看板が降ってきて、新しいメッセージが届く。
⸺えっ、いや…上からって、運悪かったら突き刺さるんじゃないか……?
『 なるほど
なら君は、光と闇
相反する二つの力を
扱うといいさ 』
⸺オレは転生したあと、この出来事を深く後悔するのだが、それはまた別の話である。
【狭間の記憶】
≫見捨てられた家のポストを開けてみた。
どうやら中には、一通だけ封筒が入っ
ている。
≫どうやら一度開けてからテープで中を
閉じたようだ。
≫テープを剥がして中を見てみますか?
▷はい いいえ
≫中に入っていたのは、手紙が数枚と一
枚の写真、そして銀色の絵の具で色付
けされた木彫りの板だった。
≫何度も消した跡がある
手紙を読んでみますか?
▷はい いいえ
「■■へ!
オレたちはどんなにとおくはなれても
えいえんにナカマだ!
そのことわすれてなくのはやめろよ!
まきより」
≫まだ二枚手紙が残っている。
柑橘の匂いがする読んでみますか?
▷はい いいえ
「ル■へ
ボクらはいつもつながっている。
だからルカは、ぜったいにひとりぼっ
ちじゃないよ。
マキもハナねぇも、もちろんボクも
■カのことをしんぱいしてる。
だから泣かないでほしいんだ。ルカ。
ハズキより」
≫まだ一枚手紙が残っている。
濡れた跡が残っている
手紙を読みますか?
はい ▶はハ刃イいヰ
「■■カちゃんへ
大丈夫ですか?
最近、あまり水晶で連絡がつかないの
で手紙を送りました。
マキシズとミキハズキに手紙を書いて
いるところを見られたので、二人の手
紙も同封しました。
返信は無理にしなくても大丈夫です。
私はただ、■ル■ちゃんが泣きそうに
なったとき、そっとそばに寄り添って
ミ■■ちゃんの苦しさが、ちょっとで
も無くなればいいと思って、手紙を出
しました。
無理をせず、ゆっくりと外の世界に慣
れて、いつかの私達が願った夢を叶え
てくれると、嬉しいです。
ハナミズキより」
≫どの手紙も送り先の人物の名前が塗り
潰されているようだ。…なぜだろう?
『 ミタナ…?オマエ、ミタナ? 』
⸺⸺⸺ゲームが落ちてしまった。
丁度いい、今日はもう終わりにしよう。
*
「な、何なんだよ…お前…」
『私ダヨ?泣カナイデ………ミルカニナロウ?ミルカハ私デ、次ハ貴方ナノ。泣カナイデ、次ニ手紙ヲ開ケタ誰カニ、ミルカヲ引キ継ゲバ、貴方ハ戻レルカラネ。ダカラ……変ワロウネ』
「……ぁ、あぁ…やめろ、来るなぁ!来るな!!!………⸺ア、アァ…』
『ゴメンね………⸺戻れ、た…よかった!家に帰れるんだ!!!」
【繰り返されるイベント】
病弱で、食事をあまり食べなかった娘。
ある日娘はこう言った。
「ねぇ、お父様。私ね、この世から開放されるときは、太陽の下がいいわ。⸺私の最期の願い、叶えてくれる?」
娘の願いの殆どを叶えてやれなかった私は、彼女の最期の望みを……叶えることにした。
娘を背負い、日傘を使い、太陽がよく見える花畑へ向かう。向かう途中に陽の光が当たらぬよう、気をつけながら。そして⸺
◆◇◆◇◆
「⸺セリカ、ついたぞ」
「んぅ………ぁ。ここ、きれい」
「そうだろう。私も、ここの景色は気に入っていてな。…セシリアの墓があるのも、この花畑だ」
「セシリア…お母様の、ですか。……死んだら、怒られてしまいそうですね」
「あぁ…そうだな」
娘にまだ、陽の光が当たらぬよう、ゆっくりと地面へと降ろす。自然を感じるのが楽しいのか、花を手折って匂いを嗅いでいる。⸺………っ。
「セリカ…そろそろ、日傘を閉じるぞ」
「⸺あっ……そうですね、お願いします。お父様」
日傘を閉じる。
その直後、身体全体に痺れるような痛みが走り、身体全体が沸騰するような熱さに襲われる。何度も経験した通り、身体のあちこちから煙が噴き出し、肉が焼けている臭いがする。
そしてそれは、娘も同じだった。
いや、娘からしたら、父親が同じ痛みを受けていることは、おかしなことだったのだろう。
私も陽の光を浴びていることに驚いた娘は、慌てるように言葉を紡ぐ。
「お…お父様!?お父様は日傘の下にいらしても⸺」
「何を言う。私がセリカと同じ痛みを受けない訳がない」
「なっ…ど、どうして!?」
私の返答を聞いて娘は、訳がわからないというような顔をする。⸺顔が歪むほどの痛みが続いているというのに……セシリアも、表情が豊かだったな。
「悲しいことに、私の身体は陽の光を浴びても消滅することは無い。おそらく、私の血は先祖に近いのだろう。だからこれは、私の推測になるが…私が死を迎える時は、先祖に習って、銀の剣を携えた英雄に殺された時だろう」
「………お父様は、死にたいのですか?」
「ふふっ…セリカ、私はね……セシリアに会う前から、死を待ち望んでいるのだよ」
私の答えを聞き、少しの間口を閉じていた娘は、何か悩んだような表情から、何かを決めたような表情に変わり、私への、最期の言葉を告げる。
「お父様。死んだ後、また会える保証なんてありません。ですから、しっかりとお別れを言います」
「⸺!…そう、か。わかったよ、セリカ。……さよならだ、セリカ」
「えぇ。……さようなら、お父様」
そうして別れを告げた娘の身体はすべて…⸺蒸発した。
骨すら残っておらず、この場に残されていたのは、娘が最期に身に着けていた衣服やアクセサリーの類いだけだった。
⸺その後、どのようにして城に帰ったのか、私は覚えていない。
◆◆◆◆◆
「お前が持ってきた、最低最悪と言われた、悪名高き吸血鬼の日記だが……ほぼほぼゴミだったぞ。魔法の記録が一つも無かった」
「えぇぇー……マジですか?それ。オレ結構苦労したんすよ?勇者サマに同行して、勇者サマ一行が吸血鬼と戦闘中にこっそり抜け出して、吸血鬼の私室を荒らして…それなのに、強力な魔法がひとっつも無いとか、オレ働き損じゃないっスか!」
「うるさいぞシュレン。貴様、戻ってきてから更に騒々しさが増したのではないか?」
「うぇ!?…そッスかね?」
「うむ。……貴様をクビにしても、人材は足りてるぞ?」
「ひぇっ!?ちょっ、真面目に!真面目に働くので解雇だけはマジ勘弁してください!!!⸺あっ!オレ、本部の掃除手伝います!今のオレができる仕事をやりますんで、では失礼します!!!」
「………口を挟む間も無く、逃げられてしまったな。まぁいいか、どうせシュレンは捨て駒に近い。⸺ククッ、我らが闇ギルドがこの国を制することは、闇ギルド設立時から決まっている運命なのだよ…フハハハ!」
【誰かの大事は誰かにとってはゴミ同然】
おまけ
「よぉし!ここの掃除完了!それじゃ、次の場所を…⸺あり?なんッスかね、この穴ぁぁぁ!?!?!?」
【とある男、異世界へと呼び寄せられる。しかし、最後はきっと、妖に……。】
⸺雨が地面へと落ちていく。
驚いたような顔で、落ちていく。
⸺雪が地面へと落ちていく。
絶望したような顔で、落ちていく。
⸺雷が地面へと落ちていく。
怒ったような顔で、落ちていく。
雨宮早紀も、静寂雪也も、雷堂智哉も。
みんな、彼の名前を言いながら落ちていった。
「ごめんなさい」と、もう届かない謝罪を、彼⸺雲木空は虚空に向かって言い続ける。
しかしそれはいつしか、「やってやった」と、笑い歓喜する言葉へと変わり、雲木空は別のナニカへと変わってしまった。
【乗っ取られた、勇気ある者】
即席キャラの名前(もとい読み方)
雨宮 早紀《あまみや さき》
静寂 雪也《しじま ゆきや》
雷堂 智哉《らいどう ともちか》
雲木 空 《くもき そら》