【ティースプーン一匙】
「憧れ」って、誰もが持てるモノだと思いませんか?
このお店は、そんな「憧れ」を、”ティースプーン一匙”だけ、みせる場所でございます。
例えば、『星空のドレスを持ちたい』という、憧れがあったとします。私共は、夜空から星の光を、ティースプーン一匙だけ掬い、ドレス全体にふりかけます。
⸺…えぇ、はい。確かに、本来の憧れとは、程遠いでしょう。だから、”ティースプーン一匙”だけなのです。
そんな、淡い夢でも叶えたいのでしたら、私共、”夢見る少女の魔法店”へ、ご来店下さいませ。
【…⸺だから、待ってろ。約束だ】
「⸺…嘘つき、もうすぐ十年経つよ。なに、やってるのさ……馬鹿」
いつまで待っても、彼は来ない。
嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき。
だけど、死ぬのは怖い。
彼がいないから、上手く死ねるか分からない。
⸺それでも。
彼が死んでたら、また会える。
本当?本当?本当?
でも、死んだら私の全て、無くなる。
彼を全部知ってる私が居なくなったら、記憶の彼が死ぬ。
⸺そうだとしても。
身体が宙に浮く。椅子が倒れた。
呼吸の道が、狭くなる。苦しい、でも…これじゃない。
視界が黒くなり始める。もう少し、もう少しだ。
「(バイバイ、私)」
【てのなかないなら、とりもどす】
鏡に映る、私を見る。
昔は、あまり自分を見るのが好きじゃなかった。
いつ見てもボロボロで、小汚くて、惨めで、欲しがったモノは、全部無くなって……死人同然だった、昔の私。
けど今の私は違う。
新しく欲しいモノを見つけて、手に入れて。
そして今日は、新しい生活の始まり。
祝福のベルの音が響いて、拍手の音も沢山聞こえる。
幸せだ。
……⸺を、忘れた訳じゃない。
押し込めてる訳でもない。
ただ本当に、乗り越えて、過去の記録に変わっただけ。
「へぇ…妬けるなぁ……まぁ俺も、悪いんだけど」
過去の声が、聞こえた。
無視をすれば、逃げ出せばいいのに、私は……⸺動かなかった。
「昨日とは…いや、昔とも違う、”お前”にしてやるよ」
私は、新しく見つけたモノを捨て、過去の…⸺ううん、未来の私になった。
【可哀想に…】
「ちょ、まっ…て、ひっぱ、んないでよ!?」
「………」
「ちょっと、聞いてんの!?」
「……騒ぐな」
「なんっ…で、走んっ、のよっ!?」
「追われてる」
「はぁ!?だからって、見ず知らずの他人引っ張るとかお人好しなの!?」
「いや、違うが」
「はいぃ!?じゃあ何なのよ?!」
「囮だ」
「え…?ちょ、まっ」
「じゃあな小娘」
「待ちなさ⸺ちょ、誰よアンタたち!離しなさいよ!私は無関係よ!!!」
【思い出すとき大抵こんな感じ】
⸺バシャバシャバシャ
うーん…なんっだっけなぁ……。
⸺バシャーン!バシャーン!
アレじゃなくて……こうでもなくて…。
⸺ザバザバザバッ!
……えぇい五月蝿い!!!
誰だよ私の記憶の中を海の如く泳いでる輩は!!!!