「……辞めたいなぁ、この仕事」
いやだってね、”アイ”って名前の液体をガラス瓶に注ぐ仕事ダヨ?なんかバカが速攻で考えたみたいなクソな仕事なんだけど、マジで辞めたい。
『無哀 届歌(むあい とどか)、本日のノルマまで37本です。いつも通りの進捗ですね、無駄口を叩く暇があったら手を動かしなさい』
そして辞めたい理由の一番はこのクソ上司だ。会社全体がこんなシステムだから、この会社辞めたい。
『C班への業務連絡です。本日のC班のノルマ達成者は1人です。まだまだですねぇ……では、本日のC班の終業時間は3時にしましょうか』
………えっ?!
『冗談です。17時にノルマが終わっていれば、本日は帰宅してもらって大丈夫ですよ』
⸺珍しっ!?!?!?
◆◇◆◇◆
「今日のカレーは特別ウマイな。隠し味?」
「あら、気付いたのね。そうなの、”アイ”を注いだの♪」
「へぇ…ありがと」
「お礼はいらないよ〜!」
【需要はあるんです、えぇ】
【書きたいので保存中…(手を繋いで)】
「もう、どうすればいいか、分からないよ…」
そう、震えた声を出す。だけど、ボクの声に答える音は、時々聞こえる銃声と悲鳴だけ。
もう何時間も、誰の…何者の血なのかも分からない血がへばりついているナイフを構え、部屋の角で震えている。
「もう、やだ…。父さんと、母さんに、会いたい……それだけなのに、どうして…?」
何故、こんなにも恐ろしい、デスゲームにボクは巻き込まれているんだ……?
なんでこんな、人間も化け物も、みんなみんな殺し合う事しかしない場所に、ボクはいるんだよ…?
⸺ガララッ!
っ、……ついに、この部屋に、誰か来た。来てしまった。
ボクは、生きたい。生きたいけど、化け物なら、ともかく…人を、殺すなんて、出来ないよ……。
『⸺おっやぁ…?どーやら隠れて生き延びようとする小虫がいるみたいデスねぇ。α−SEVEN、ドウしますか?』
この声……合成音声?それも、時々名前を聞く、ボーカロイドの声じゃ…。それに、アルファ……セブン?それが、今部屋に入ってきた男の名前、なの?
⸺って、ボクのことバレてるの!?ど、どうしよう!?
「……どこだ?」
『実は、この部屋なのデスよ!いやぁ、α−SEVENが優秀といっても、隠れる小虫の存在や位置を把握することは難しいのデスねぇ♪』
「………そろそろ三時間経つぞ」
『⸺おや、本当デスねぇ!とても華麗かつスマートに天使ドモを処理していくα−SEVENのお供はとても楽しかったのデスが、仕方ありませんね。……デ、モォ〜、ここに隠れている小虫は、β−ONE、だということは吐いておきましょう〜♪⸺ミッション達成の報酬である、アシストナビゲーションの使用可能時間は残り、0分です⸺終了、しました⸺ガガガッ』
ベータ、ワン…って、ボクのこと、だよね?
なんでそんな名前?がつけられてるんだ…?
「…やっぱ、現代的な手段より、魔法とかの方が効率的だな。いやまぁ、科学が駄目とは言ってないが、何も持ってないって場面だと、魔力使うだけで選択肢が星の数ほど増える魔法のほうがいいんだよなぁ」
⸺……え?
一瞬、瞬きのために目を閉じた、その一瞬の内に、部屋の中が明るくなっている……なん、で?
「…この部屋、監視カメラとか壊れてるし、部屋の周りはあの異形連中と、どっかの傭兵集団が陣地争いしてる地帯だから、余計な奴らも寄り付かなそうだな。ここを拠点して、休息と補給のために、一度帰るか………で、お前は何時まで部屋の隅で震えてる気だ?」
なんで、場所、バレ…ってか、魔法?え???
「⸺あ、やべ……あー、うん。口が軽くなってるのは、アホ上司に自白剤を盛られたからって言い訳するか、全く違うって訳じゃないし。悪いけどそろそろ喋ってくれる?このままだと僕、おしゃべりな奴って思われるからさ」
「あ、えっと……殺さ、ない?」
「殺さん殺さん」
渋々、男の前へ出る。
だけど、ナイフは構えたままで。
「警戒心が高いな〜。僕のことは、A−SEVENじゃなくて……俺は別に、了承したわけじゃないんだが⸺スペードって呼んで。今だけしか呼ばんだろうけど」
「スペードさん、ですか?……あ、えと、ボクは、細石光って名前、です」
「光くんね………ちょっと目、合わせるよ」
「え、あの?」
な、なんで、てかちっ、近い……///
「ありがと」
「ど、どういたしまして?」
び、びっくりした……⸺なんか、足元光ってる!?
「あっ、あのスペードさん!?今何をしているんですか!?」
「位置的には、この術式をベースに防御と混乱防止と……⸺なに、光くんを無事に元の世界に送り届ける為の魔法を発動させてるだけさ」
「か、帰れるの!?」
「もちろん……元々、この世界の生物はとっくの昔に滅びていてね。今この世界にいるのは、この世界の人間に作られたAIや、世界間移動ができるまで科学が発達した世界、安住の地を求める種族。それと、僕みたいな怪しい奴。それと、光くんみたく、運悪くこの世界に迷い込んでしまった者たちだけなんだ。⸺よし、光くん。今、一番帰りたい場所を思い出して……あぁ、目を瞑ってからね」
帰りたい、場所。父さん、母さん……帰り、たい。家に、家族がいる家に!!!
「⸺次会うときは、平和な時と場所で会えることを願っておくね〜、覚えてるかは分かんないけどね⸺」
◆◇◆◇◆
気づいたらボクは、無傷で家の前に立っていた。
いつの間にか無くしていたランドセルを背負い、左手にピアニカを持っていた。ボロボロで、泥と血で汚れていた服も、きれいになっていた。
家に入ると、母さんが夕飯を作っていた。
声をかけると、「今日は帰ってくるのが遅かったね」と笑いながら、ボクが手を洗ったら、夕飯作りを手伝ってほしいと続けた。
ボクは手を洗いながら、時間がそれほど経っていないことに安心する。良かった、母さんたちを困らせてなかったって。でも、”母さんたちを困らせるようなこと”の記憶が、凄くぼんやりとしているのは、なんでかな?
◆◇◆◇◆
「光ー!こっちの赤いハートの箱のチョコか、こっちの青い車の箱のチョコ、お父さんに贈ったら、どっちの方が喜ぶか意見を聞きたいわ〜!!!」
「ちょっ、母さん!そんな大声出さなくても聞こえてるからっ!」
今日は母さんと一緒に、バレンタインに父さんへ渡すチョコの下見に、ショッピングモールに来ていた。そんな時、ふとある会話が耳に入る。
「今年こそ私が!先に!スペードにチョコを渡すから!」
「えぇ〜、俺が先に渡すと、目をウルウルさせて上目遣いしてくるハートを見れるから渡してあげてるのに〜w」
「いやだ何故こっちの好意を最大限誇示出来るバレンタインの日に先回りされるとか女子のプライドが泣くわ!」
「じゃ、俺に勝てるまでバレンタインの贈り物を探し続けろよ〜」
「へ?⸺なっ!?まって、私を置いて帰んないでよ!」
ハート…スペード…なんで、記号で互いを呼び合っているんだろう?
でも、スペードって男に、覚えが…ある、気がす⸺
「光!母さん決めたわ!この虫型のチョコをお父さんに渡すわ!!!」
「⸺わぁ!?ちょっと母さん!今何か思い出せそうだったのに!」
「あらそうなの?ごめんなさいね〜」
「…はぁ、でもいいや。どうでもいいことだろうから」
【部屋の片隅の記憶は、記憶の片隅に】
オマケ
「…やっぱり、記憶消去は必須だな」
「何をどう思ってその言葉が出てきたん?!」
「俺だって抜けてるとこはあるからなぁって考えから」
「そ、そっか」
「現実いきたくねぇ…」
うわっ上司が意味が重なってそうな発言してる……触れんとこ。
「おーい、顔見ればわかる、ってか心読もうと思えば読めるんだぞハートちゃーん」
「読ませる前提ですが何か?」
「あり、そうなんか…じゃええか」
そうそう、これでいいんだよこれで。
「ていうかダイヤちゃんとクラブ君はどこ行った?スペードくんはまぁ家事しに帰ったのは覚えてるけど」
「さっき帰りましたよ、お菓子が無くなりましたから」
「ちっ、薄情な奴らだ…まぁ毒舌(設定)と子供以外は崖に蹴り落とす(比喩)って感じの二人だから仕方ないか」
ダイヤ……毒舌キャラだったっけ?
クラブはまぁ、分かるけど。
「ハートちゃんとか現実に持ってくるのに一番手っ取り早い方法が、俺が現実でコスプレすれば早いってなったんだけど、拒否る?」
………えぇ(*˘•д•˘;)
「…本気でやるならいいんですが、第一歩に『運動』存在しますが、そこんとこどうなんです?」
「おっ何だ?現実の俺が太いって煽ってるのかな(`ーωー´)?」
「事実ですし、認めてますよね?」
「フッ、そうだ!ま、許可は貰ったし、気が向いたら本気でやってみるよ」
それ結局やらないやつ………ま、いいや。
「それはそうと、そろそろ夢から醒めたらどうです?」
「いや夢だったらハートちゃんin俺のパターンが多いから」
「ツッコミの仕方ズレてますね…でも、いい加減そっちの日常戻ってください」
じゃないとスペードに引っ付きに行けないし…。
「(おっ、やったぁ!名前の上書きできてんじゃーん!)…じゃ、帰るか。一人称視点ノートで俺視点もハートちゃん視点もいけたし、後は第三者視点でいけたら、本格実装かな〜」
…ん???
「あー、もしかして、ボイスレコーダーの文字起こしに心の声も文字起こしするタイプの魔導具創り…いえ、創ってましたか?」
「ふっふーん、せぇーかぁーい♪」
「………今すぐ去らないとそのノート、滅却しますよ?」
「ヤベっ、にっげろー!」
⸺……本当に、退屈しないなぁ。
【これはただの雑談だな!】
ピィンと、天啓のようなモノが聞こえた。
よし、言ってやろうじゃねぇかこの野郎!
「⸺へい君たち!皆揃ってるかい?」
皆に声をかけ、揃っているか聞く。
⸺うんうん、ちゃんと皆揃ってるみたいだね!
「みんなって…私ら4人だけなんだけど……?」
私の中で妹的存在を維持している⸺いい加減名前伏せるの面倒だな…あぁそだ、トランプのマークでいいじゃん。名前呼んでるとこはマークの名前で隠そうじゃないか!⸺ダイヤちゃんが質問してきた。
いい質問だ!答えようじゃないか!
「二回以上出え…⸺ん”んっ、シフト入った子って、基本バイトという名の即興くんたちじゃん。君ら4人は正社員的立ち位置じゃん…でも君ら以外正社員組は存在自体もほぼほぼ出てないからさ……天使ちゃんは例外として、だけど」
「あ…そうなん、っていや、そうじゃん。早く私達の活躍書いてくださいよ!」
「あー、あー!きーこーえーなーいー」
ハートちゃんが何か言っているが、聞こえません!!!
「それで、なんで集めたんです?」
「いい質問だクラブ!今回君たちを集めた理由は、言いたいことを思いついたからだ!」
ほんっとクラブのお陰で話が脱線しても直ぐに戻せる、ありがとう!
「よぉーし、言うぞー!…⸺コホンッ、皆は私に対して、”さよなら”って言わないでね!”さよなら”を言うときは、私だけだから!!!」
「………⸺どうでもいい話だったのでハート連れて帰りますね」
ヒドイ!冷たい!スペードくんの鬼!悪魔!サディスト!
そんなとこがスペードくんらしいぞ!!!
「よし……⸺ねぇねぇハートちゃん、和菓子屋の和菓子買ってきてるけど、食べてから帰る?」
「えっ?あー…食べます!!!」
「よっしゃのんべんだらりしてけぇよ〜!」
やった皆でお茶会だ!!!
【伝えたかったことはさっぱり終わる】