右を向くと、白。
左を向くと、黒。
正面を向くと、黒と白の真っ直ぐな境界線⸺と、このほぼ何もない空間に似つかわしくない、木製の看板。
『 光と闇
君はどちらを選択する? 』
⸺転生オプションを選べたから、ここに来たんだが…これ人によって解釈変わると思うのだが???
「けどま、分かりきったことだ。オレはどっちつかずの中立で平々凡々が良いからな……今こうやって立っている場所、オレはこの選択をする」
突然、上から看板が降ってきて、新しいメッセージが届く。
⸺えっ、いや…上からって、運悪かったら突き刺さるんじゃないか……?
『 なるほど
なら君は、光と闇
相反する二つの力を
扱うといいさ 』
⸺オレは転生したあと、この出来事を深く後悔するのだが、それはまた別の話である。
【狭間の記憶】
罪を重さによって、こちらの岸と、向こう岸の間の距離が伸びるのは我々、渡し守死神内では常識だ。それでも、だからこそ言いたい。
⸺何時になったら向こう岸につくんだい…???
時を遡ること、数十時間前。
私はいつも、罪が重い死者を運ぶ役目を引き受けて(押しつけられて)いるのだが、本日運ぶ死者は、どうやら死神間をたらい回しにされているようだ。
理由を聞くと、「いくら漕いでも対岸につかない」というのだ。いやいや、それは普段から私に罪が重い死者を押しつけ……頼んでいるから、罪が重い死者を運ぶ距離を忘れているだけだと思っていたのだが、それにしたって長い。
私がいつも送る死者は大体、12〜24時間程の時間をかけて、死者の国へ送っている。⸺え…普段でも長いって?まぁ…私、社畜ですので。えぇ。
だが、今乗せている死者は、もう48時間くらいは漕いでいる気がするのだ。そりゃあ時折、休息を取ったりなんかはしているが、普段の死者の倍以上なんて……とんでもねぇ大罪人なのかねぇ、コイツ。
流石の私もずっと無言で二人きりなのは、我慢の限界なので、話しかけてみることにした。
規則でも、世間話程度は禁止されていないからね。
「おいおぃ兄さん、こんなに向こう岸につくのに時間がかかるのは私も初めてなんだが……一体何をやらかしておっちんだんだい?」
暫しの静寂……そのうち、此度の死者⸺男は口を開いた。
「多分僕は、禁忌を…犯したと……思います」
……意外だ。何がって?(推定)大罪人はオラオラ系かと思っていたのだが……いや偏見たっぷりなのはそうだけど、まぁ確かに、今の今までずぅっと黙りこくってたんだから…いいや分からんぞ、猫かぶりをしてる可能性だってある。死神は所詮、死ぬ間際から判決を受けるまでの死者を担当するヒラだから、罪が重いか軽いかしか分からないし、善で相殺が効くかは、実際に判決をする方々しか判断できないんだよなぁ。
「……禁忌って、どんな禁忌なんだい?」
気になったので、どんな禁忌を犯したのか聞いてみる。
「えと、最高創世様…?の、力の一部を……お借りして、使用しまして…」
「⸺……え?」
思わず声が出てしまった。だがちょっと待ってほしい。最高創世様だと?……それはヤバい。字面から分かる通り、世界の頂点とも言える、最高位の称号所持者であり、我々のような死神や、アリの一匹なんかも自由に生みだすことができる、創世の力を持っている方だ。
分かりやすく言うと、作者…だろう。思い通りの展開に、思ったように喋らせることもできる方なのだ。
⸺私だって、最高創世様が作られた一人という可能性だってあるわけだ。
流石に、聞きたくなる。一体どういう状況で、最高創世様の力を借り、使用することになったのかを。
「それは、どういう状況でか……聞いてもいいかい?」
「……実際に、力を借りる術式を起動したのは、僕では無いのですが、力を借りて、その………復讐を、しました」
「…復讐、か。相手は死んだのかい?」
「いえ、確認は…出来て、いません」
「そうか……⸺お、ようやく向こう岸が見えたぞ!」
⸺長かった!!!
流石にこの距離は……有休取ろう。おぉ、これは休んで英気を養ってから、次の仕事に取り掛かった方がいいからな。有給も取りやすいだろう。
「⸺!!!」
向こう岸で、誰かが手をふっている。
誰だ⸺まさか………!?
*
「やぁー、ごめんごめん。こっちの手違いで無駄働きさせちゃって。ほんっとうにゴメン!」
「あ…いえ。俺が忘れてただけですから⸺」
「⸺いぃーや違う!!!俺が君の魂と記憶を勝手に分けたのが大きくロスしてる原因だから!」
「いえ、三年って言ってあるので」
「はぁぁぁぁ!?!?たった!?たった三年!?いいんだよ!もっと拗らせて十年でも百年でも待たせろ!!!もっと拗れてていいんだよ君らは!!!」
「いや俺の方が無理ですから!」
「知るかもっと時間経過させてやる!妨害用に恋愛フラグの旗でも立ててやろうか!!!……いやまてそれは俺が成分摂取できなくて困る。ひっじょーに困るぞ?」
「だったら妨害せず、過干渉せずに居てください」
「くそぉ!!!」
今行われてる会話は、岸についてから、ではない。
私がせっせこ舟を漕いでいる間に行われている。
⸺コイツ、なんで最高創世様と親しげに……あー………最高創世様が作られたのか…?にしたって会話の内容がな。
「あ、ごめんね死神く⸺し…し……シガミくん!そこの彼は俺⸺じゃなくて、私に渡してくれる?私が直接相手しなきゃいけないからさ。君の上司には、ちゃんと伝えてるし、こっちの手違いだから、君へのボーナスと有給を弾むように言ってあるから!」
「え?あぁ…別に、これが仕事ですから…?」
なぜ、私の名を知って…いや。最高創世様なら、名など直ぐに分かるか。しかしボーナスか…何に使おう。そういえば最近、家内が現世に旅行しに行きたがっていたな……ボーナスの確認が取れたら、家内に相談でもしておこう。
そう考えながら、桟橋にロープをかけ、重りを底に沈める。
⸺ようやく辿り着いたぞ。
「ありがとうございます…えっと、シガミさん」
「だからいいって。それより兄さん、なんで最高創世様とそんなに気安いんだい?それと、一人称も…」
「あぁ……気安いのは、色々巻き込まれまして…それで。一人称は…記憶があやふやになってまして」
「そうかい……⸺達者でな」
「⸺!…えぇ。貴方も、お元気で」
ふぅ……長い仕事だったぜ。
【シガミさんの長い仕事日】
〖おまけ〗
「あの…シガミって、即興で名前決めましたよね?」
「ギクゥッ!?……そそ、そんなこと…無い、よぉ?」
「それに最高創世様って……その病気、一生治りませんね」
「グオォォォ………ダメージが、ぐぅ…酷いぞ◆◎⸺グベラッ!?!?!?」
「名前言おうしたら、ダメージ食らうってことわすれてましたね……貴方が面倒なことしまくってるから俺らの名前が一生出されないんですよ?」
「ヤメテ…メタいこと言わんで!書き手のライフはもう0よ!マイナスいってしまうわ!!!」
「知るか」
「うわーん冷たいー!!!」
≫見捨てられた家のポストを開けてみた。
どうやら中には、一通だけ封筒が入っ
ている。
≫どうやら一度開けてからテープで中を
閉じたようだ。
≫テープを剥がして中を見てみますか?
▷はい いいえ
≫中に入っていたのは、手紙が数枚と一
枚の写真、そして銀色の絵の具で色付
けされた木彫りの板だった。
≫何度も消した跡がある
手紙を読んでみますか?
▷はい いいえ
「■■へ!
オレたちはどんなにとおくはなれても
えいえんにナカマだ!
そのことわすれてなくのはやめろよ!
まきより」
≫まだ二枚手紙が残っている。
柑橘の匂いがする読んでみますか?
▷はい いいえ
「ル■へ
ボクらはいつもつながっている。
だからルカは、ぜったいにひとりぼっ
ちじゃないよ。
マキもハナねぇも、もちろんボクも
■カのことをしんぱいしてる。
だから泣かないでほしいんだ。ルカ。
ハズキより」
≫まだ一枚手紙が残っている。
濡れた跡が残っている
手紙を読みますか?
はい ▶はハ刃イいヰ
「■■カちゃんへ
大丈夫ですか?
最近、あまり水晶で連絡がつかないの
で手紙を送りました。
マキシズとミキハズキに手紙を書いて
いるところを見られたので、二人の手
紙も同封しました。
返信は無理にしなくても大丈夫です。
私はただ、■ル■ちゃんが泣きそうに
なったとき、そっとそばに寄り添って
ミ■■ちゃんの苦しさが、ちょっとで
も無くなればいいと思って、手紙を出
しました。
無理をせず、ゆっくりと外の世界に慣
れて、いつかの私達が願った夢を叶え
てくれると、嬉しいです。
ハナミズキより」
≫どの手紙も送り先の人物の名前が塗り
潰されているようだ。…なぜだろう?
『 ミタナ…?オマエ、ミタナ? 』
⸺⸺⸺ゲームが落ちてしまった。
丁度いい、今日はもう終わりにしよう。
*
「な、何なんだよ…お前…」
『私ダヨ?泣カナイデ………ミルカニナロウ?ミルカハ私デ、次ハ貴方ナノ。泣カナイデ、次ニ手紙ヲ開ケタ誰カニ、ミルカヲ引キ継ゲバ、貴方ハ戻レルカラネ。ダカラ……変ワロウネ』
「……ぁ、あぁ…やめろ、来るなぁ!来るな!!!………⸺ア、アァ…』
『ゴメンね………⸺戻れ、た…よかった!家に帰れるんだ!!!」
【繰り返されるイベント】
君と他愛のない話をして、終わりの時を待っていた。
そんな時、君がこの壊れかけの世界に、ずっと居たいという言葉をこぼした。
だから、どうして君はこの世界にずっと居たいのか、聞いてみた。
心を読めば直ぐに分かるけど、今は。
今だけは、君の口から、彼女の思いを聞きたかったから。
少しばかり静寂が辺りを支配していたが、ぽつり、ぽつりと、君が自身の思いを話し始めた。
*
「私が、ここにいたい理由はね、終わらせたくない…っていうより、……⸺終わりが、怖いんだよ。思い描いた通りに魔法が自由に使えて、この世界で数え切れないほど生きて、大抵のことじゃ死ななくて……そんな状態に、慣れた私が………元の世界に戻ったとき、この世界を作る前だった私に戻れるのか、わからないよ」
そっか、そうだったね。
君は、”絶対”って言葉よりも、”変わる”ことが怖かったね。
少しずつ変わるならともかく、大きく変化することが怖くて……だったらいっそ、”不変”がいいって。
だからこの世界は少しの刺激と、一度出来上がったモノは絶対に変わらない世界なんだよ。
そういえば……元の世界だった頃の、昔の君に怒られたっけ。あの時の俺は、しばらく切れていなくて腰下まで伸びていた髪を、肩口まで切って、君に会いに行ったね。
そうしたら君、俺に会ってすぐ泣きだして、「どうして私に何も言わないで勝手に髪を切ったの!」って、自分勝手に言ってて……今だから言うけどね、その時の君、とっても自分勝手で、俺は君のモノだって主張してて……ちょっとキたんだよね…///
「……⸺ふん!」
⸺痛ァっ!?
ちょっ、ちょっと!?俺の発言に怒ったのは分かったから、いきなり急所に肘打ちしないで!?
「ばーか」
いっつつ、はぁ……ごめん。
「………じゃあ、終わらせないで。私はずっと、この世界をに居たい。この世界の夢を見続けたいの」
……終わらせないことで、君に許されないとしても、俺のこの世界を終わらせるという決断は揺らがないよ。
この世界を終わらせないと、君が死んじゃうから。
「それは、そうかもね。でも…だから、許さない」
…………。
「向こうで……元の世界で、生きてる貴方が謝るまで、許さないから」
⸺!
それは……大変だな。
君が三年待っても、俺が君の前に居なきゃ、その場合の俺は、とっくの昔に死んでるだろうから、その後は好きにしなよ。
「……わかっ、た。好きに…やるよ」
ふふ、分かったらいいんだよ。
⸺もうちょっと話せそうだね…何話す?
「じゃあ……あ。色々レシピ教えて。作りたい」
あぁ、わかったよ。じゃあまずは⸺。
【この思いは、終わらない】
『愛情たっぷり育てて、君好みの恋人を作ろう!』
たまたま踏んだ広告。
直ぐに閉じようとしたが広告の内容に、マウスを動かす手が止まった。
「あ、あやしぃ〜……けど、なぁ〜」
生まれてから一度も恋人が出来ず、彼氏いない歴=年齢と言えてしまう私だが、私だって努力してるのだ。
遺伝により背が低いのを、計算した運動でむっちりボデェでカバーし、自分に合う服装や化粧にも気を使っている。
ぶっちゃけ、既婚者である義姉よりも女子力と呼ばれるものを多く持っている自信がある!……のに、合コンに参加しても、主に身長を理由に、二次会に参加させてもらえないのだ。ちくしょう!
正直、自分好みに育てるというのは、あんまり好きじゃない……あの義兄と同じ癖は持ち合わせてはいないのだよ、ケッ。
しかしこの広告は、神にすら無理と言われた私が縋る、藁なのではないかと思うのだ。よし買おう、買えるし買おう。
フハハハ!あの共依存気味夫婦を超えるくらいラブラブできる彼氏、育ててやらァ!!!
◇◆◇◆◇
「で、その結果はどうだったんだ?」
「見ての通りだよ。広告はただの詐欺で、数百万詐欺師に資金提供しただけだった………詐欺師はボコって金取り返して警察にお届けしたけど」
「ふーん…残念だったな。上手い話には大抵裏があるってこったろ」
「そっかぁ……ねぇパパぁ、お見合いセッティングして♡」
「はっ……次パパって呼んだら、パパ活女子って呼ぶぞ」
「いやそれそっちも被害受けない…?」
【今回のお見合いも駄目だった()】