罪を重さによって、こちらの岸と、向こう岸の間の距離が伸びるのは我々、渡し守死神内では常識だ。それでも、だからこそ言いたい。
⸺何時になったら向こう岸につくんだい…???
時を遡ること、数十時間前。
私はいつも、罪が重い死者を運ぶ役目を引き受けて(押しつけられて)いるのだが、本日運ぶ死者は、どうやら死神間をたらい回しにされているようだ。
理由を聞くと、「いくら漕いでも対岸につかない」というのだ。いやいや、それは普段から私に罪が重い死者を押しつけ……頼んでいるから、罪が重い死者を運ぶ距離を忘れているだけだと思っていたのだが、それにしたって長い。
私がいつも送る死者は大体、12〜24時間程の時間をかけて、死者の国へ送っている。⸺え…普段でも長いって?まぁ…私、社畜ですので。えぇ。
だが、今乗せている死者は、もう48時間くらいは漕いでいる気がするのだ。そりゃあ時折、休息を取ったりなんかはしているが、普段の死者の倍以上なんて……とんでもねぇ大罪人なのかねぇ、コイツ。
流石の私もずっと無言で二人きりなのは、我慢の限界なので、話しかけてみることにした。
規則でも、世間話程度は禁止されていないからね。
「おいおぃ兄さん、こんなに向こう岸につくのに時間がかかるのは私も初めてなんだが……一体何をやらかしておっちんだんだい?」
暫しの静寂……そのうち、此度の死者⸺男は口を開いた。
「多分僕は、禁忌を…犯したと……思います」
……意外だ。何がって?(推定)大罪人はオラオラ系かと思っていたのだが……いや偏見たっぷりなのはそうだけど、まぁ確かに、今の今までずぅっと黙りこくってたんだから…いいや分からんぞ、猫かぶりをしてる可能性だってある。死神は所詮、死ぬ間際から判決を受けるまでの死者を担当するヒラだから、罪が重いか軽いかしか分からないし、善で相殺が効くかは、実際に判決をする方々しか判断できないんだよなぁ。
「……禁忌って、どんな禁忌なんだい?」
気になったので、どんな禁忌を犯したのか聞いてみる。
「えと、最高創世様…?の、力の一部を……お借りして、使用しまして…」
「⸺……え?」
思わず声が出てしまった。だがちょっと待ってほしい。最高創世様だと?……それはヤバい。字面から分かる通り、世界の頂点とも言える、最高位の称号所持者であり、我々のような死神や、アリの一匹なんかも自由に生みだすことができる、創世の力を持っている方だ。
分かりやすく言うと、作者…だろう。思い通りの展開に、思ったように喋らせることもできる方なのだ。
⸺私だって、最高創世様が作られた一人という可能性だってあるわけだ。
流石に、聞きたくなる。一体どういう状況で、最高創世様の力を借り、使用することになったのかを。
「それは、どういう状況でか……聞いてもいいかい?」
「……実際に、力を借りる術式を起動したのは、僕では無いのですが、力を借りて、その………復讐を、しました」
「…復讐、か。相手は死んだのかい?」
「いえ、確認は…出来て、いません」
「そうか……⸺お、ようやく向こう岸が見えたぞ!」
⸺長かった!!!
流石にこの距離は……有休取ろう。おぉ、これは休んで英気を養ってから、次の仕事に取り掛かった方がいいからな。有給も取りやすいだろう。
「⸺!!!」
向こう岸で、誰かが手をふっている。
誰だ⸺まさか………!?
*
「やぁー、ごめんごめん。こっちの手違いで無駄働きさせちゃって。ほんっとうにゴメン!」
「あ…いえ。俺が忘れてただけですから⸺」
「⸺いぃーや違う!!!俺が君の魂と記憶を勝手に分けたのが大きくロスしてる原因だから!」
「いえ、三年って言ってあるので」
「はぁぁぁぁ!?!?たった!?たった三年!?いいんだよ!もっと拗らせて十年でも百年でも待たせろ!!!もっと拗れてていいんだよ君らは!!!」
「いや俺の方が無理ですから!」
「知るかもっと時間経過させてやる!妨害用に恋愛フラグの旗でも立ててやろうか!!!……いやまてそれは俺が成分摂取できなくて困る。ひっじょーに困るぞ?」
「だったら妨害せず、過干渉せずに居てください」
「くそぉ!!!」
今行われてる会話は、岸についてから、ではない。
私がせっせこ舟を漕いでいる間に行われている。
⸺コイツ、なんで最高創世様と親しげに……あー………最高創世様が作られたのか…?にしたって会話の内容がな。
「あ、ごめんね死神く⸺し…し……シガミくん!そこの彼は俺⸺じゃなくて、私に渡してくれる?私が直接相手しなきゃいけないからさ。君の上司には、ちゃんと伝えてるし、こっちの手違いだから、君へのボーナスと有給を弾むように言ってあるから!」
「え?あぁ…別に、これが仕事ですから…?」
なぜ、私の名を知って…いや。最高創世様なら、名など直ぐに分かるか。しかしボーナスか…何に使おう。そういえば最近、家内が現世に旅行しに行きたがっていたな……ボーナスの確認が取れたら、家内に相談でもしておこう。
そう考えながら、桟橋にロープをかけ、重りを底に沈める。
⸺ようやく辿り着いたぞ。
「ありがとうございます…えっと、シガミさん」
「だからいいって。それより兄さん、なんで最高創世様とそんなに気安いんだい?それと、一人称も…」
「あぁ……気安いのは、色々巻き込まれまして…それで。一人称は…記憶があやふやになってまして」
「そうかい……⸺達者でな」
「⸺!…えぇ。貴方も、お元気で」
ふぅ……長い仕事だったぜ。
【シガミさんの長い仕事日】
〖おまけ〗
「あの…シガミって、即興で名前決めましたよね?」
「ギクゥッ!?……そそ、そんなこと…無い、よぉ?」
「それに最高創世様って……その病気、一生治りませんね」
「グオォォォ………ダメージが、ぐぅ…酷いぞ◆◎⸺グベラッ!?!?!?」
「名前言おうしたら、ダメージ食らうってことわすれてましたね……貴方が面倒なことしまくってるから俺らの名前が一生出されないんですよ?」
「ヤメテ…メタいこと言わんで!書き手のライフはもう0よ!マイナスいってしまうわ!!!」
「知るか」
「うわーん冷たいー!!!」
12/2/2024, 1:58:20 AM