「お前、今なんつった?」
低く、怒りと驚愕が交じった声。
その声の主である木別は、目の前の彼を見ている。
「鶏弐お前、小麥や片久里を…珠子も捨てて、天父に行くのか……?」
出会ってから、数十分しか経っていなかったかもしれない。だけど彼らの仲の良さに時間なんて関係無かった。
「はい、木別さん。天父と木別さんの相性は、小麦や片栗、珠子殿よりは良くないと判断したため、今晩は…」
鶏弐は真剣な表情で木別を見つめる。
二人の心境は最早、第三者である我々の力でも読みきれないだろう。
「くっ……アタシを、捨てるんだろ?サッサッと行けよ」
「いえ、木別さん」
「な、なんだよ…?」
鶏弐は木別を真っ直ぐ見つめている。
そんな鶏弐に、木別は少し戸惑いながらも言葉を交わす。
「明日は、小麥や片久里、珠子と共に行きましょう。幸い、私は大きいですから」
「へ……?」
間抜けとも言える、気が抜けた声。
「天父、根サーズの方々のファンですが、お一人だとお恥ずかしいらしく、仕方なく」
「あ…」
木別は知っている。根サーズはとても万能で、どんな難題も持ち前の対応力で大抵こなしてしまう、有能集団だと。
「えと、その………兎も角、明日の晩は、皆で…行きましょう。同じ袋に入った縁ですから」
「⸺……ふっ、仕方ねぇな。鶏弐!」
*
「アホというか、トンチキ系の夢見ちゃった…風邪の後遺症かな」
目覚めた時、喉が渇いていたので水を飲みに流し台に向かう道中、先程まで見ていた夢を思い出していた。
今日と明日の晩御飯は、揚げ物かな。
そんな風に思いながら、登場人部たちの元の食材なんかを考えていく。
木別はキャベツ。
鶏弐は鶏肉。
小麥は小麦粉。
片久里は片栗粉。
珠子は卵。
天父は…天ぷら粉、かな。
根サーズは………根菜類?
人参とかジャガイモとかがメンバーに居るんだろう、多分。
「ていうか、パン粉ハブられてんのかな…?」
その日の昼食は、チキンカツ定食を注文して美味しく頂いた。メチャウマだったです。
【昨夜はとり天、今夜は唐揚げ】
「⸺っぁ……ケホッ…っ」
思う様に、声が出ない。
声が枯れるほど、唱えて…泣いていたんだろう。
そのことに気づいて、虚しくなった。
私は、なんで生き延びたんだろう……って。
生きているのが、助けられたからなのは、分かってる。
けど、私の中の命を…私の大切を………捨ててしまった。
痛い苦しい辛い悲しい嫌だ嫌だ嫌だ。
なんでどうして私だけなの独りはやだよやだなのいやなのに………誰も、いないんだ。
魔法が使えたら。
身を守る魔法が使えたら。
敵を倒す魔法が使えたら。
誰かを癒やす魔法が使えたら。
……時間が戻る魔法が使えたら、良かったのに。
使えない、使えない、使えない。
⸺あぁ…そうだ。夢を見よう。私の大切があって、みんな幸せで、それで、ちょっとの困難を乗り越えられて……どんな魔法も使える夢。
そうだよ、夢を見ればいいんだよ。
夢を見て、創ればいいんだよ。
声が出ない?そんなの気合で出せばいい。
ただ一言、言えればいいんだよ。
それを言えば、夢を創って……夢を見れるから。
「…っ、おや…すみ、なさい……せか…ぃ…」
唱えたら、目の前が暗くなって、私の意識はボタンを押したみたいに、パチリと消えた。
【夢の始まりは、彼女だけが知っている】
物語の始まりはいつも突然だ。
生きているモノとして生まれることから始まったり、絶体絶命な状況で走馬灯の如く振り返るように始まったり、何でもない日常から非日常に変わることが始まりだったり。
⸺じゃあ、我が部下たる君が、一番理想とする始まりはなんだい!!!
「……相変わらず唐突ですね。………何でもない日常から、ちょっぴり不思議な体験をする、のが理想ですね」
え、そうなん?てっきり、ラストバトルから始まってそのバトルになるまでの鬱展開をじっくり〜ってタイプかと思ってたわ。
「私に平穏を求める思考が定着するほど主人公的立ち位置を押し付けてるのって誰でしたっけ?」
………へへ。じゃあな!!!
「あっちょっおいコラ!⸺クソッ逃した……家事しよう。イライラは、積み重ねるしかない作業で徐々に沈めるのが私にとっての最高効率なんだから」
【この日常は遠い未来。もしくはIF】
⸺貴女にとって、忘れたくても忘れられないコトはなんですか?
「うーん、色々あるけど………大量の切り傷で許されたと思ったら、死海レベルの塩水かけられたこと、かな。未だにあの時の痛みはトップクラスに痛かったし…心にもちょっとダメージもらったし」
⸺貴方にとって、忘れたくても忘れられないコトはなんですか?
「………子供の頃にもらった、殆どのおかずの味付けが全く合ってない弁当。忘れたいくらい、味付け合ってなかったけど…それ食べて、料理出来るようになろうって決めたから」
⸺貴方にとって、忘れたくても忘れられないコトはなんですか?
「あー……身内で飲んだ時、みんな揃って泥酔して性癖暴露大会になったこと。俺も性癖言ったが代わりに奴らの性癖が知れたから、損は…そん、は………ははは()」
⸺貴女にとって、忘れたくても忘れられないコトはなんですか?
「初めて……家族を指す言葉を言った時かな。こっ恥ずかしかったけど、みんなを初めて家族だと思ってるって…言った時だから」
⸺最後に、質問者に言いたいこと等がありましたら、どうぞ。
女は言う。
「給料上げてください。月一万ってなんですか、お小遣いレベルじゃないですか…給料上げてください」
男は言う。
「時々、女装してくれと言いながらデザイン画送りつけるの、止めてほしい」
彼は言う。
「もうちょっと俺のキャラ煮詰めてくれ。苦労人ポジいてほしいのは分かってるが…俺だって大ボケかましたい」
少女は言う。
「恋人くれなきゃリア充撲滅委員会に所属するぞ。さぁ今度こそ私に恋人フラグを寄越すのだ!!!」
【四人に聞いてみた!】
やわらかな光。暖かく、包み込むような印象を受ける。
しかし、真っ暗闇の中だったら?
*
「なんで灯りを回復魔法使った時のエフェクトで確保してるんだろう」
とある洞窟。行くなら暗闇で火属性魔法か灯り魔法、松明などを持っていけと近隣の街の酒場や武器、防具屋で物凄く念押しされるのだが、この馬鹿⸺失礼、この女は街によらずに洞窟に行ってしまった。
ちなみに余談ではあるが、女はいわゆる転生者でもある……Tと、もう一文字つくタイプではあるが。
「回復魔法で灯りを確保してるから無いよりはマシ程度だし、そもそも回復魔法を使う為に自傷行為に走ってんの明らかに奇行なんだけど……はぁ」
なお、女が通った道には血がポツポツと落ちている。回復魔法を限りなくゆったりと発動させているが、いかんせん回復していくのでいずれ治る。治り切る前に傷をつける……の繰り返しで洞窟の奥へと進む。
女が洞窟の奥へと向かう理由。
それは、女は気付いていないが、この洞窟の主に魅了をかけられているからだ……食料目的で、だぞ?
「そろそろ、最奥かな……?」
やわらかな光⸺否、この暗闇の中に対しては心許ないとしか言いようがない光では……昼間に見ても怖いとしか言われない洞窟の主の姿を見たら、恐怖心しか無いだろう
第三者こと書き手だって怖いし。実体験してる女はこれ以上に恐怖を味わっているだろうな、ははは。
⸺その後女は、死に物狂いで逃げ、二度と冒険に出ないことを誓ったとか、そのまま洞窟の中を永遠に彷徨ったとか……色々な噂が広まっている。
*
「唐突に物語を考えろと言われ、お題を投げられた側の気持ち、分かる?」
なはは、知らん。
「このクソ上司が……まぁアドリブって難しいってことは再確認できたから、いっか」
君のそういうとこ、嫌いじゃないねぇ。
【エフェクトで灯り確保って、実際どうなんだろうね?】