黄昏時にしか現れぬ境界よ
混沌渦巻き魑魅魍魎が蔓延る異界を開き
異界の住民を、我が身を通し現界せよ
〖憑化〗悪魔憑き
【詠唱っぽいのを書きたかっただけ】
⸺では、また。二度とお会いしたくないですが。
「違う、なぁ…バツ」
⸺じゃあね♪ばいば〜い!
「これも違う、かな…バツ」
⸺ふふっ……では皆様、さようなら。
「あぁー、これ…もしっくりこないな。これもバツ」
⸺お前ら、あばよ。
「これも…ちg「台本出来たかー?」どぅわっ!?!?」
「ケケっ、ひっくり返ってらぁ。んなに驚いたのか?」
「お、驚きますって!あぁもう、びっくりした…急に声かけないでくださいよ」
「にゃはは、わるいわるい。んで、どう?台本出来た?」
「それ絶対悪いって思ってませんよね……台本作るって言ったの昨日ですよ。一日二日で出来たら苦労しませんって」
「そか…じゃ、しゃあないか。なら、さっきから何してたんだ?」
「主人公とヒロインの別れのシーンを入れたくて、主人公の性格が分かるような言葉を作ってから他の所に手をつけようと」
「ほぉ〜ん…なら邪魔せんように、下校時間になったらまた来んぞー」
「あっはい。分かりました先輩」
「せいぜい頑張れなぁ…只人くん」
「確かに僕は凡人です、が……⸺それだ!!!」
【別れ方のヒントは去り際に】
窓の外の景色を見る。
時折真っ暗闇になるのが難点だが、それで差し引いても余りあるほどの良い絶景が見れる。それでも暗闇は困るのだがな。
しかし最近、窓の調子が悪い。グルグルと窓自体が回ったり、二つある窓の一つが暫く暗闇状態が続いたり。一番酷い時は、いつもとは違う暗闇が数日続いたことだな。アレは酷かったな。暫く前はスピーカーの調子が悪い時期が数週間続いたし、そろそろ替える頃かもしれんな。
そんなことを考えていたからか、窓の外に居る人物と、スピーカーから聞こえる声に気づくのが遅れた。
『⸺ルビカ オル ラスヴェ ケルベ ズダック!』
声……呪文に気づいたときにはもう遅く、俺は引きずり出されてしまった。
*
「ユウ、引きずり出せたぞ!」
一際目立つ青年と、大昔の人間に似たジジイ。ジジイに引きずり出されたのかよ……可愛い女の子が良かったぜ。
「ほ、ホントに俺の中に、魔物がいるなんて……信じらんねぇ」
「なんじゃとお主。師匠の言葉を信じてなかったじゃと!?そこに直れ!鍛え直してやるわ!!!」
「えっわっ!?ちょっ、ジイちゃん、やめ、イタッ!?」
俺、取り憑くやつ間違えたか…?
【窓は視界、スピーカーは耳】
【声】
私は昔から、声が聞こえなかった。
音楽や自然の音は聞こえた。
なのに、人や機械音声の音⸺声だけが、聞こえなかった。
だから私は、昨日までは筆談だった。
そう、“昨日”までは。
手術に成功したから、という理由ではない。
どうやら、声が聞こえない原因は科学的ではなく、呪いの類だったから、らしい。
雲を掴むような噂話を追って、やっと見つけた魔女に多額の治療費を払い、魔女の助手になる約束をして、それでも足りない分は、身体の一部で賄って。
そうして私は、今日から⸺これからは声が聞けるようになるのだ。
*
「ふむ。これで、聞こえているかね?」
「⸺ぅあ……こえ、が…きこえる………?」
【秋に恋をした】
昔、ある秋の三連休に行き先を決めずに旅をした。
各駅停車の電車を乗り継いで、乗り継いで。気付くと、山間部を走る路線に乗っていた。
そんな電車に乗っていた時、いつの間にか眠っており、目が醒めると私が乗っている号車には、私一人が乗客として乗っているだけだった。
寝過ぎたと思い、窓の外を見る。
色とりどりに染められた山々。
山と山の間に沈む夕日。
⸺私は初めて、“恋”をした。夕暮れの秋の景色に、恋を。
その後、あの景色をもう一度見たくて、同じ路線に乗った。だけど二度と、あの景色に出会うことは無かった。
もしかしたらあの景色は、神様の仕業だったのかもしれないと、今はそう思ってる。