子どもが生まれたら余裕なんて全くなくて
いつも常に動いてるし、睡眠だって満足にとれてない
ねぇ人間って夜通し泣けるの?
この小さな身体のどこにそんなに体力があるの?
本当に私の子か?
もうダメだ…と力尽きていたら代わるよと腕の中の重みが消えた
ええ…明日仕事でしょ…
いいよって言っても寝れないと辛いでしょって
いやいや、あなたの方が辛いでしょうよ
世の旦那様は育児に参加しない方が多いと言うがうちはかなり参加してくれる方だ
有難いやら私が情けないやら…
「いつまでこうなんだろうね…」
思わず愚痴っぽくなっちゃって、ああ、こんなこと言うべきじゃなかったなって謝ろうとしたら腕の中の子どもを愛おしそうに見つめてる顔が見えた
「今はすごく大変だけどきっといつか、いつまでもこうだったら良かったなって思う日が来るよ」
親みたいな顔で親みたいなことを言って
そうだよ、親だよ
私だってこの人だってもう人の親なんだから
私は情けないことばっかり言うけど悩んだ時は背中を押してもらって、できれば逆も出来たら良い
どんな時だって2人でいるんだから最強じゃない
最強の育児仲間じゃない
きっとこれから先ももっともっと大変なことがあるだろうし、壁にぶち当たることだってあるだろうけど2人でいれば平気だよ
いつかこの子が大きくなったらさ、巣立つ日が来たらさ
2人でぼろぼろ泣きながら乾杯でもして称え合おうよ
その頃はお酒じゃなくて熱いお茶の方が美味しくなってる頃かもしれないけど、頑張ったねって2人で言い合えるようになってたら良いよね
その時まで頼むよ、相棒
そんな事をしみじみ思ってたらやっぱり今の時間だって凄く大事に思えて
いつかこんな何気ない日常を慈しむ日が来るんだろうなと思う
それはやっぱり寂しくて、そしてとても誇らしいんだろうな
…まぁ、それはそれとして
とりあえずそろそろ寝ませんか?
隣り合って手を繋いで生きていきたい
引っ張ってもらうのは絶対嫌で、引っ張っていける程強くもない
程よく無理せず
2人で揃って歩いてゆきたい
きっと喧嘩した時は繋いだ手を振り払って、先に行く!って乱暴に言うだろうから
その時は追いかけきて握り直してほしい
いじっぱりで素直とは程遠いので多分離れてったら戻り方がわからなくなるから、戻してほしい
その時は怒ってるかもしれないけど、嫌いだって言うかもしれないけどそんなの全部嘘だから見捨てないでほしい
そう伝えたら、目を丸くして「今日やけに素直じゃない?変なもの食べた?」と言われた
この野郎…そういうとこだぞ!デリカシーと言うものをだな!
もういい!って怒って先を行こうとしたら急に右手が取られた
温もりが伝わってくる
「えっ?」
「えっ?だって先行ったら戻してって」
いや、それは精神的な話であってね?何も四六時中手を繋いで歩いて行こうってわけではなくてね?そういう生き方をしていきたいっていう話でね、物理的なことではないのですよ
呆れて色々と言ったのに別にいいじゃんって握った手を満足そうに見られたら結局何も言えなくなってされるがまま、手は繋がれたまま
まぁ、冬だし?こっちのが体温低いし?今日一段と冷えるし?
色々言い訳を重ねても、またこうやって押し切られる自分の未来が見えてきた
きっとこんな感じでこれからも生きてく
ちょっと悔しいけど、まぁ悪くはないよ
幸せにしてもらったと胸を張って言える
この6年間は私の人生の全てでした
私だって同じくらい幸せにしたい
そう思える人を置いて私はいきます
期限を決められた私の命ではあなたの横にずっといることはできないのです
明日が来る事が奇跡みたいな私と明日を迎えることが当然のように出来るあなたでは一緒に生きることはできないのです
あなたは同じように明日を迎えられる人と幸せになってね
嫌だ嫌だと子どものように泣くあなたが私は大好きで
ごめんね、君の方が辛いよね…と気遣ってくれるあなたが愛しいです
代われたら代わりたいないなんて言わないで
そんな事されたら私は一生私を許せません
あなたは私以外好きになれないと言ってくれますが
私はあなたが素敵な奥様と可愛いお子さんに囲まれている未来がふわふわと見えているのです
妬んでいるわけでも、僻んでいるわけでもありません
あなたの幸せが私のささやかな願いなのです
あなたに降り掛かる脅威など私が幽霊になってぶっ飛ばしてやります
そしてあなたが心から想える素敵な人と出逢ったらそっと成仏するのです
そしたら私幽霊になっても幸せじゃないですか
だから泣かないでね
あなたにはたくさんの感謝しかありません
出逢ってくれてありがとう
愛してくれてありがとう
泣きそうな時いつも飛んできてくれてありがとう
酔っ払ったらすぐ迎えにきてくれてありがとう
趣味じゃない映画も私に合わせて観てくれてありがとう
好きじゃない甘いものも一緒に食べてくれてありがとう
大きい事も小さい事もあなたに感謝したい事がいっぱいあって止まりません
でもね、謝らなきゃいけない事もたくさんあります
病気になったこと、あなたとずっと一緒にいる事ができない事、あなたを1人にしてしまう事
でもこれ言ったらあなた泣いちゃうから
一つだけ
これだけはあなたにどうしても謝ってからいきたいです
病気になった時
別れてって言ってごめん
愛してくれた6年間を蔑ろしてごめん、あなたの気持ちを見縊ってごめん
これだけはずっとずっと言おうと思ってたのです
たくさんの感謝とほんの少しの罪悪感を残して私はいきます
最後まであなたの事を考えていられるのですから
私の人生はやっぱり幸せでした
部屋の片隅で
温かいホットミルクを飲んで
今日の出来事に思いを馳せたりして
余裕のある私素敵!なんて思ってみたりして
実際は余裕なんかなくて
考えるのは答えの出ないことばかり
あの言い方キツかったかな…
あれちゃんとやったかな…
私このままでいいのかな…
「歳を重ねれば変わるわよ」ってお母さんはよく言ってたけど
どれくらい重ねたら変わるのかな
気にしやすい性格にとって夜は大敵だ
あー暗い、それに寒い
冬だって大敵だ
私、なんか生きづらくない?
何これ、私だけ?
もう嫌って項垂れた私の頭になんか当たった温かいもの
ホットミルクのマグカップ
お気に入りのマグカップにつるりとした白
少し冷えて温くて、溶けた蜂蜜は甘くて
広い部屋の隅っこでこれを飲むのが私のご褒美で、明日への活力
え?私凄い!
だって今日の自分を労わって、明日の自分を元気付けてるんだよ?
それ1人でやってるんだよ?
眠れない夜だって、泣きたい夜だって私ちゃんと自分で立て直して明日へ向かう準備してるんだよ?
私やっぱり素敵じゃない!
なんだか妙に元気になった私を諌めるように温い暖かさが包んでく
今日はよく眠れる
明日の私、明日もご褒美あるからね!って
明日の私に全てを託して今日の私は暖かいベッドに飛び込んだ
お皿に移し替えて温めたらそれなりに見えて、もうご飯すら炊く気力はなくとも冷凍ご飯を温めれば食べれる
私の愛しき電化製品は電子レンジです
発明ありがとう
あー、疲れたって向かう先はベッド
ごろんっていつもはやらない足元の方に頭をやって仰向けで寝る
逆さまになったリビングはなんて汚いんでしょう
食べた食器はそのまま、脱ぎ散らかした服はぐしゃぐしゃ、また、あそこに落ちていますのは今朝化粧の時に落ちたアイライナーですね、早くしまわないと明日絶対に探すでしょう、あそこにあるストッキングなんだ…?、今日履いたものじゃないぞ…いつからそこにいた…?
逆さまの世界に見えるのは私のズボラさ
仕事と家事の両立なんぞ何年経ってもきっと出来ない
出来る人は世の中にたくさんいるのにな…
私は出来が悪く生まれたんだな…ごめんよ、お母さん
「ただいま」
物思いに耽っていたら電子レンジとは違うベクトルで愛しい旦那様が帰ってきた
ヤバい、何もしてない…
絶対ビックリしてるよね…
その証拠にリビングに入ってきてから何も言葉を発していない
食べたままの食器、散らかった服やら何やら
寝室を覗けば逆さまの奥様
世の旦那様方、こんな奥様でも愛せますか…?
もうなんで片付けておかなかったんだ!
帰ってくるのわかってたのに!
あー申し訳ない…
顔を覆って後悔していたらギシッとベッドが軋む音がして隣に同じように寝転んだ旦那様
「これ、楽しいの?」
真面目な顔して聞いてくる
「うーん…楽しくはない、あと頭に血が昇りそう」
じゃあ、やめなよって楽しそうに笑ってくれる
お?お?いい男じゃないか
出来損ないの私に怒りもせず、同じ目線で楽しんでくれる
拝啓、お母様、あなたの娘、男を見る目はありました
ありがとう
なんかこういうのいいなって、こういう夫婦っていいなって
温かい気持ちになってたら私の愛しい旦那様は一言仰ったのです
「あのストッキングいつからあるの?」
…それは私にもわかりません