部屋の片隅で
温かいホットミルクを飲んで
今日の出来事に思いを馳せたりして
余裕のある私素敵!なんて思ってみたりして
実際は余裕なんかなくて
考えるのは答えの出ないことばかり
あの言い方キツかったかな…
あれちゃんとやったかな…
私このままでいいのかな…
「歳を重ねれば変わるわよ」ってお母さんはよく言ってたけど
どれくらい重ねたら変わるのかな
気にしやすい性格にとって夜は大敵だ
あー暗い、それに寒い
冬だって大敵だ
私、なんか生きづらくない?
何これ、私だけ?
もう嫌って項垂れた私の頭になんか当たった温かいもの
ホットミルクのマグカップ
お気に入りのマグカップにつるりとした白
少し冷えて温くて、溶けた蜂蜜は甘くて
広い部屋の隅っこでこれを飲むのが私のご褒美で、明日への活力
え?私凄い!
だって今日の自分を労わって、明日の自分を元気付けてるんだよ?
それ1人でやってるんだよ?
眠れない夜だって、泣きたい夜だって私ちゃんと自分で立て直して明日へ向かう準備してるんだよ?
私やっぱり素敵じゃない!
なんだか妙に元気になった私を諌めるように温い暖かさが包んでく
今日はよく眠れる
明日の私、明日もご褒美あるからね!って
明日の私に全てを託して今日の私は暖かいベッドに飛び込んだ
お皿に移し替えて温めたらそれなりに見えて、もうご飯すら炊く気力はなくとも冷凍ご飯を温めれば食べれる
私の愛しき電化製品は電子レンジです
発明ありがとう
あー、疲れたって向かう先はベッド
ごろんっていつもはやらない足元の方に頭をやって仰向けで寝る
逆さまになったリビングはなんて汚いんでしょう
食べた食器はそのまま、脱ぎ散らかした服はぐしゃぐしゃ、また、あそこに落ちていますのは今朝化粧の時に落ちたアイライナーですね、早くしまわないと明日絶対に探すでしょう、あそこにあるストッキングなんだ…?、今日履いたものじゃないぞ…いつからそこにいた…?
逆さまの世界に見えるのは私のズボラさ
仕事と家事の両立なんぞ何年経ってもきっと出来ない
出来る人は世の中にたくさんいるのにな…
私は出来が悪く生まれたんだな…ごめんよ、お母さん
「ただいま」
物思いに耽っていたら電子レンジとは違うベクトルで愛しい旦那様が帰ってきた
ヤバい、何もしてない…
絶対ビックリしてるよね…
その証拠にリビングに入ってきてから何も言葉を発していない
食べたままの食器、散らかった服やら何やら
寝室を覗けば逆さまの奥様
世の旦那様方、こんな奥様でも愛せますか…?
もうなんで片付けておかなかったんだ!
帰ってくるのわかってたのに!
あー申し訳ない…
顔を覆って後悔していたらギシッとベッドが軋む音がして隣に同じように寝転んだ旦那様
「これ、楽しいの?」
真面目な顔して聞いてくる
「うーん…楽しくはない、あと頭に血が昇りそう」
じゃあ、やめなよって楽しそうに笑ってくれる
お?お?いい男じゃないか
出来損ないの私に怒りもせず、同じ目線で楽しんでくれる
拝啓、お母様、あなたの娘、男を見る目はありました
ありがとう
なんかこういうのいいなって、こういう夫婦っていいなって
温かい気持ちになってたら私の愛しい旦那様は一言仰ったのです
「あのストッキングいつからあるの?」
…それは私にもわかりません
眠れないほど
悩んでる事があっても
朝になれば割と普通に日常生活は送れるもので
上手く隠せば誰にもバレないと思ってたのに
「最近元気ない?」
友達からきたLINEにぎくっとした
なんでバレたんだろう?
上手くやってたはずなのに…
もう言っちゃおうかな?
いやいや、言ったらそんなことで悩んで馬鹿みたいって言われちゃうかも…
皆同じだよって言われちゃうかも…
あれ?私の友達ってそんな人だった?
優しくていつもにこにこしてて、ちょっとメイク変えただけで可愛い可愛いって大絶賛してくれて
一緒にいると楽しいって定期的に言ってくれるような人じゃなかった?
「悩みがあって、最近寝不足で…」
短い文章なのに送るのが怖くて
一生懸命押した送信ボタン、既読はすぐに付いた
言わなきゃ良かったな、なんて答えていいかわかんないよね…
弱気になってたら急にスマホの画面が通話を知らせてて
驚いて反射的に出た私に友達の声が聞こえてきた
「もう、そういうことは早く言ってよ!!話くらいいくらでも聞くし!」
そういうところ遠慮がちなんだからと怒った声に安心して噴き出してしまった
ああ、なんかこれだけで今日はよく眠れそうな気がしてきた
「あ、もう遅いし、別日が良かった?思わず電話でしちゃったよ」
「ううん、聞いてほしいな。なんか話したら眠れそうな気がするの」
じゃあ、話そうって優しい声が聞こえてきて
顔は見えないけど、私の大好きな笑顔で言ってくれてるだろうなと思ったらなんだか泣きそうになってきた
私の良い友達に恵まれてるなって
大好きだけど大切だけど、でも声を聞いただけで、笑顔を想像しただけで泣きそうになったのはバレたくないな…って
強がりな私はそう思った
こんにちは、22歳の私様
私32歳の私と申します
あなたは今頃就活で忙しい時期ですね
好きな事を仕事にすればきっと長く続けられる!そう夢見て興味のある職種を見漁っている頃でしょう
血も涙もない事を言いますが、好きだろうが嫌いだろうが続く時は続くし、続かない時は続きません
これが現実です
就職してからは大好きな仕事でワクワクして残業だって何のその、いち早く慣れていち早く会社の一員になりたいと目を輝かせ努力したものです
立派な気持ちですが、そんなものは1年も経てば消え去ります
今はとにかく家に帰りたい
ソファで足を投げ出して動画を見る時間は至福です
何にも代えられません
ある程度年数が経って仕事に慣れてくれば教育係という恐ろしい立場が待っています
とにかく苦手
自分だってろくに教育出来ないのに他人のしかも自分より歳下の子を一人前に育ってあげるなんてできるはずないのです
出来なければ怒られるのは私
指導不足、なら指導の仕方を覚えるのでこちらにも教育係をつけてほしいものです
しかも劇的な出世でもしなければ、私には上司がいて年数が経てば部下ができるわけです
気が利かない、残業をしないと部下の文句を言う上司、あの上司の発言はパワハラだと憤慨する部下、板挟みで涙目の私
私が何をしたというのでしょう、何で私に何でも言うのでしょう?
結局貼り付けた笑顔でどちらも諌めるのです
どうでしょう?こんな人生嫌だって思いました?
奇遇ですね、私も月に2.3回は思ってます。
22歳の私様、あなたは夢や希望に溢れキラキラしていて、私には眩しいです
私はあなたが大好きです、戻れることなら戻りたいです
でもそういうわけにはいかないので私はこれからもこの人生を生きていくのです
最悪な人生と思われるかもしれないのですが、実はそればっかりではありません
仕事終わりのビールは美味しいし、推しの配信は癒されるし、たまに行くライブは若返ったと思うくらいいきいきしています
私は割と楽しく、逞しく生きています
だから心配せず飛び込んでおいでね
飛び込んだ先がこんなところじゃ嫌かもしれないけど、人生は薔薇色じゃないけど、人様に自慢できるものもないけど、あなたみたいなキラキラした夢ももう見れないけど
いつか私は色々あったけどこの人生で幸せだったと胸を張って言えるように頑張ります
それでは22歳の私様、またいつかお話しましょうね
さよならは言わないで
私が最後に言ったお願いだから律儀に叶えようとしてるみたいで
さっきから一生懸命に言葉を選んでる
えっと…って言葉に詰まってる
わかってるよ、わかってる
あなたはちゃんと私の事を想ってくれてる
言葉にするのが下手で行動に移せば空回りして
そうだよ、そういうとこだよ
さよならは言わないで
これは私のわがまま
だってあなた決めるとこは決めちゃうじゃない
告白の時だって
夢を叶えるのに遠くに行くって言った時だって
いつもいつも不器用なくせにそういう時だけ決めちゃうじゃない
だからあなたからは絶対に聞きたくないの
聞いたら私はこれから先あなたなしで歩いていけなくなっちゃう
あなたのさよならがずっと心に残っちゃう
ありがとうも聞きたくない、出会えて良かったも聞きたくない、さよならも聞きたくない
へらへら笑わないでちょっと微笑む大人びた表情も見たくない
「今までありがとう、さよなら」
私から言わないでって言ったくせに、自分で言うのは良いなんてわがままでしょ?
「…うん」
なのに最後まで私のお願い聞いてくれるんだね
言いたいこといっぱいあるでしょ
言わないだけで聞きたいこと本当はあったでしょ
そうだよ、そういうとこだよ
私の大好きだったところ