花畑 Ver.2
ネモフィラのブルーが好きだ。
生きているうちに茨城県の国営ひたち海浜公園まで見に行きたい!と常日頃思っていた。
4月の中旬。どうしてもネモフィラが見たかった。天気は晴れ。茨城までは少し距離があるので足立区の舎人公園までネモフィラを観に行こう!と決めた。思い立ったが吉日。私は電車を乗り継いで日暮里舎人ライナーで舎人公園に降り立った。
ネモフィラの咲いている規模は想像より小さかったが、ブルーが充分美しく公園内には八重桜も咲いていて淡いピンク色が綺麗だった。
小さな売店でソフトクリームを頂いた。ワンちゃん連れの人も多く、賑わっていた。
淡いブルーの可愛いネモフィラ。スマホに何枚も写真を撮った。夜にはライトアップもするらしい。
夕食の支度があったので、この日はライトアップはお預けとなった。
来年は夜に見に行こう。また一つ楽しみが増えた。
お花畑に夢中なもうちょっとで還暦の乙女です。乙女!?あ。あくまで自己申告…。あしからず。
空が泣く
5歳になったばかりの、孫との会話が楽しい。
何で?や、どうして?の質問も沢山してくる。その度に、少し立ち止まって一緒に考えたり、会話の中で自分なりの答えを導きだしている様子だ。
最近の気候変動で突然の雷雨の日に、二人で雨宿りをしていた。
雷が鳴って、怖いと顔を歪めた小春は、「すごい音だね〜怖いよ小春。でも何でこんな大きな音がするんだろう…お空が怒っているのかな…。」
続けて雨が降ってきたら、「お空が泣いているんじゃない?」と無邪気な発想で私を癒してくれる。
「そうだね、お空が泣いているんだね。」と私も答える。
「どうして、お空が泣くんだろう…。あ!ケンカしちゃったからかな。」
「そうだね、大ゲンカしちゃったのかもね。」
ゲリラ豪雨で道行く人達は皆大変そうだ。
雨宿りをしながら、こんな長閑な会話をしているのが不思議な程だ。
子供の力って偉大だなぁ。とつくづく思う。
明日の天気予報は晴れマーク。小さな天使からどんな言葉が飛び出すやら…と想像したら笑みがこぼれた。
こうして私の目尻の皺は増えていく。
命が燃え尽きるまで Ver.2
命が燃え尽きるまで筆を握り続けた巨匠は幾人もいる。
その一人の、色彩の魔術師と名高いアンリ・マティスを私は愛してやまない。
法律家の道も歩めるほどの頭脳も持ち合わせたマティス。
元々身体が丈夫でなかったマティスが長期入院の際、気晴らしになれば…とアマチュアの画家だった母親から絵の具を与えられたその瞬間から、彼の絵画への飽くなき挑戦は始まったらしい。
永遠に色褪せない油絵や切り紙絵の作品…。
天才とは努力の異名なり、と言った識者の言葉を思い出す。
遅咲きの画家マティスは、どれほど研鑽を重ねたのだろうか。
尊敬するマティスの作品を美術館で鑑賞できる機会がこんなにもあるなんて、幸運極まりない。
私はせめて、命が尽きるまでマティスの絵に会いに行こう。
夜明け前 Ver.2
夜明け前に、荷物をまとめた。
俺の手荷物など大したものはない。家族写真を持っていこうか迷ったが、後ろ髪をひかれるのでやめた。
寝室で眠る長女の2歳半になる、レイナとまだ6ヶ月の長男ルイ、そして俺が愛した妻の寝顔を最後に見た。
身勝手な俺を許してほしい。
到底許せるものではないけれど…。
慣れない畑の、建築関係の仕事に疲れてしまった。君との関係もギクシャクしてきた。やり直せるタイミングは何度かあった。
マイホームを建てようかと計画もしたが、君のお姉さんが何だかんだど口出ししてきた。
恵まれてる環境の妹夫婦への嫉妬だろう。
トラック運転手をしていた俺に、「うちの会社で働くか?」と結婚と同時に言われた義父の言葉に一つ返事で承諾したのは、何を隠そう俺だ。それからは、事あるごとに君の家族との繋がりにがんじがらめになってしまった。
俺は選択ミスをした。
「父の会社に入ったら苦労するよ。」君は忠告してくれたのに…。
もっと早い段階で話すべきだった。もう限界がきてる…と。
俺は君が思っているほど強くもないし、責任感にも欠ける人間だよ。
さよならも言わずに去っていく俺は卑怯ものだ。
玄関を出た。夜明け前の薄暗い夜道を駅まで歩く。
細く長い一本道。どこまでも、孤独と自由が続いてるようだ。視線を落としていた俺の行く先に、朝日が昇ろうとしていた。
本気の恋 Ver.2
3年間だけ結婚生活が続いた。元旦那様が幼子を残し家を出て行ったので正式に言うと、もっと短い。
お別れは、調停離婚だった。
お付き合いは6年もしていた彼が、調停離婚で見せた顔はまるで別人で…。呆れ果てた私は離婚の条件も悪かったけれど、お別れ出来て寧ろ清々しい気持ちになった。
ひとり親になった私は、力仕事もした。カスタマーサポートセンターでも働いた。とにかく必死だった。
都営住宅が当たって、上の子が1年生、下の子が保育園のころ、自転車で通える物流の会社に就職した。パート、準社員、正社員とキャリアを上げるために頑張った。
おんぶ紐をしながら自転車の3人乗りで保育園に通い始めてから、5年が経とうとしていた時、同じ職場の歳下の彼と恋に落ちた。
上の子は小学2年生になっていた。
本気の恋だった。彼の車で子供たちも一緒に遠出も何回かした。スキーしか経験無かった私が初めてスノボーにも挑戦した。
恋に溺れて、私は子供より歳下の彼に夢中になることもしばしばあった。
でも全貌が見えてくるのは遅くはなかった。歳下の彼は私のことだけ大切にしてくれた。
ただの家族ごっこに過ぎなかった。私達に未来は無かった。
そして私が男まさりの性格でなく、もう少しか弱い女性だったら…ひょっとしたら上手くいっていたのかもしれない。それは誰にも分からない。
若い彼に、包容力を求めた自分が馬鹿だった。
本気の恋は、あっけなく終わりを告げた。もう2度と恋などしないかもしれない…。
二人の子供たちの寝顔をみながら、「今まで寂しい思いをさせてごめんね。」と涙が頬を伝った。
新しい朝が始まろうとしていた。