命が燃え尽きるまで Ver.2
命が燃え尽きるまで筆を握り続けた巨匠は幾人もいる。
その一人の、色彩の魔術師と名高いアンリ・マティスを私は愛してやまない。
法律家の道も歩めるほどの頭脳も持ち合わせたマティス。
元々身体が丈夫でなかったマティスが長期入院の際、気晴らしになれば…とアマチュアの画家だった母親から絵の具を与えられたその瞬間から、彼の絵画への飽くなき挑戦は始まったらしい。
永遠に色褪せない油絵や切り紙絵の作品…。
天才とは努力の異名なり、と言った識者の言葉を思い出す。
遅咲きの画家マティスは、どれほど研鑽を重ねたのだろうか。
尊敬するマティスの作品を美術館で鑑賞できる機会がこんなにもあるなんて、幸運極まりない。
私はせめて、命が尽きるまでマティスの絵に会いに行こう。
夜明け前 Ver.2
夜明け前に、荷物をまとめた。
俺の手荷物など大したものはない。家族写真を持っていこうか迷ったが、後ろ髪をひかれるのでやめた。
寝室で眠る長女の2歳半になる、レイナとまだ6ヶ月の長男ルイ、そして俺が愛した妻の寝顔を最後に見た。
身勝手な俺を許してほしい。
到底許せるものではないけれど…。
慣れない畑の、建築関係の仕事に疲れてしまった。君との関係もギクシャクしてきた。やり直せるタイミングは何度かあった。
マイホームを建てようかと計画もしたが、君のお姉さんが何だかんだど口出ししてきた。
恵まれてる環境の妹夫婦への嫉妬だろう。
トラック運転手をしていた俺に、「うちの会社で働くか?」と結婚と同時に言われた義父の言葉に一つ返事で承諾したのは、何を隠そう俺だ。それからは、事あるごとに君の家族との繋がりにがんじがらめになってしまった。
俺は選択ミスをした。
「父の会社に入ったら苦労するよ。」君は忠告してくれたのに…。
もっと早い段階で話すべきだった。もう限界がきてる…と。
俺は君が思っているほど強くもないし、責任感にも欠ける人間だよ。
さよならも言わずに去っていく俺は卑怯ものだ。
玄関を出た。夜明け前の薄暗い夜道を駅まで歩く。
細く長い一本道。どこまでも、孤独と自由が続いてるようだ。視線を落としていた俺の行く先に、朝日が昇ろうとしていた。
本気の恋 Ver.2
3年間だけ結婚生活が続いた。元旦那様が幼子を残し家を出て行ったので正式に言うと、もっと短い。
お別れは、調停離婚だった。
お付き合いは6年もしていた彼が、調停離婚で見せた顔はまるで別人で…。呆れ果てた私は離婚の条件も悪かったけれど、お別れ出来て寧ろ清々しい気持ちになった。
ひとり親になった私は、力仕事もした。カスタマーサポートセンターでも働いた。とにかく必死だった。
都営住宅が当たって、上の子が1年生、下の子が保育園のころ、自転車で通える物流の会社に就職した。パート、準社員、正社員とキャリアを上げるために頑張った。
おんぶ紐をしながら自転車の3人乗りで保育園に通い始めてから、5年が経とうとしていた時、同じ職場の歳下の彼と恋に落ちた。
上の子は小学2年生になっていた。
本気の恋だった。彼の車で子供たちも一緒に遠出も何回かした。スキーしか経験無かった私が初めてスノボーにも挑戦した。
恋に溺れて、私は子供より歳下の彼に夢中になることもしばしばあった。
でも全貌が見えてくるのは遅くはなかった。歳下の彼は私のことだけ大切にしてくれた。
ただの家族ごっこに過ぎなかった。私達に未来は無かった。
そして私が男まさりの性格でなく、もう少しか弱い女性だったら…ひょっとしたら上手くいっていたのかもしれない。それは誰にも分からない。
若い彼に、包容力を求めた自分が馬鹿だった。
本気の恋は、あっけなく終わりを告げた。もう2度と恋などしないかもしれない…。
二人の子供たちの寝顔をみながら、「今まで寂しい思いをさせてごめんね。」と涙が頬を伝った。
新しい朝が始まろうとしていた。
カレンダー Ver.2
9月10日母の誕生日。壁にかかったカレンダーには星マーク。
近所の花屋さんで、リンドウを選んだ。母の好きだった紫の花。リンドウは9月の誕生花でもあるそうだ。誕生石のサファイアと並んで寒色系って涼しげで綺麗だ。
私は7月生まれで、誕生花は向日葵。誕生石はルビーだ。誕生石も色々ある中で、ルビーにはときめかない。
母に「私もサファイアの誕生石が良かった〜。」といつも言っては二人で笑った。
もし、母が生きていたら今年で80歳を迎えた。
死因は胃癌。手術をして自宅で療養するも、長くなかった。桜が満開の春に母は逝ってしまった。
私は暫く桜を見ると悲しくて、桜を綺麗だと愛でることが出来なかった。
立ち直るまで3年かかった。
亡くなった命日より、母の誕生日に重きを置く自分が不思議だ。
今年の9月も水色のぺんで書かれた星マークがついたカレンダーが、窓辺でゆれている。
世界に一つだけ
世界に一つだけ願いを叶えてくれる魔法が使えたなら…。
戦争のない平和な日々が永遠に続く世界しか望まないだろう。
日常の様々なシーンで、戦争に苦しんでいる人々に思いを馳せる。
私達は、どんなに質素であってもご飯が食べられない日は皆無に近い。
怪我をすれば病院にも行ける。
好きな時間に好きな事を何の制約もなく楽しめる。
大切な人と一緒に過ごせる。
目の前で愛しい人達の命が奪われるなんて…想像しただけで気が狂いそうだ。
人の命を奪って良い理由なんて一つもない。
悲しいニュースを目にする度に心が痛む。
目を背けたくて、ニュース番組を見ない日もある。
そんな自分も時々嫌になる。
映画に登場する無敵のヒーローが世界を変えてくれたら良いのに…。
そんな子供じみた思いが湧いてくる。
子供に人気のアンパンマンを書いた、やなせたかしさんは平和への思いを込めてあの作品を書かれたのは有名な話しだ。
手のひらを太陽に、の歌詞もやなせさん。
「僕らはみんな生きている…生きているから…。」
世界のリーダーが、どうか平和主義者でありますように。
世界がいつか手を取り合って一つになれますように。
みんなの思いが届きますように…。
世界に一つだけなら、平和以外望むものなどない。