空恋
空を見上げても、あなたがいるわけじゃないってそんなこと分かりきっている。けれども、空を見て恋しくなるのは、きっと晴れた空があなたの笑顔に似ているからだと思う。
雨空でさえも、どこかあなたが見せた少し寂しそうな顔と重なってしまう。
もう隣にはいないのに、空を見るたび嫌になるくらいあなたを思い出してしまう自分が、どうしようもなくて少しだけ苦しい。
波音に耳を澄ませて。
砂浜に並んで座っていた。
潮風はやわらかく頬を撫で、暮れかけた空は溶け合うように茜から群青へと移ろっていく。
砂粒が指の間を滑るたび、どこか現実じゃない場所にいる気がした。
波が寄せる音がする。
ザーッ、ザーッ、と繰り返し聞こえるその響きが、胸の奥で脈打つ何かとそっくりに思えた。
少し触れただけで壊れそうなものを、そっと胸に抱えたまま黙っていた。
隣にいるそのぬくもりが愛おしくて、でも手を伸ばせばきっと、今の静けさが崩れてしまう。
小さく息を吸った。
潮の匂いと一緒に、どうしようもなく膨れ上がった気持ちも肺に入ってきて、胸の奥がきゅうっと苦しくなる。
寄せては返す波の音。
その間に入り込むように、自分の心臓が高鳴っていた。
ザーッ、ザーッ、そのリズムにそっくりだ。
もしも今、この音に気持ちを紛れ込ませることができたら。
それはやがて、波にさらわれて届くかもしれない。
そんな淡い願いだけを抱えて、またひとつ、波が引いていくのを目で追った。
青い風
青い風が吹いた。
それだけで思い出してしまう。
あの日、君は同じ景色を見ながら、もう少しで泣きそうな顔をしてた。
何も言わずに、ただ風に髪を揺らしていた君。
その横顔が痛いほど綺麗で、息をするのを忘れるくらい。
青い風はすぐに去った。
残ったのは、何も変わらない町と、もう二度と戻らない時間。
今も風が吹くたびに、あの青を探してしまう。
もう隣に君はいないのに。
叶わぬ夢
もし、願いが叶うのなら、私はきみに会いたい。
自分自身に気づかないふりをしていた。
好きという感情が分からなかったから。
なんて思われているのか怖かった。
あの日、あの時、きみが思いを伝えにきてくれて、私も同じ感情だからとても温かい気持ちになった。
いや、気持ちだけではなく実際きみの暖かさに包まれていて、なんて心地がいいのだろうって、ずっとこのままでよかったのにって思った。
きみとこの先どんな困難が待ち受けてもそれを受け入れる覚悟ができていたんだ。
でもきみを失う覚悟は持ち合わせていなかったみたい。
君を探して
一日中、あなたの事を考えて、また日が沈む。
そして、日が昇る。
どうしたら会えるのだろうか。なんてそんなことばかり考えてしまう。
私があなたの瞳にいることさえも、もうできないというのに。
あなたとの過ごした時間はどれだけ心地が良かったのだと、、
今になってわかった。
時間は巻き戻せないし、勝手に、嫌でも進んでいく。
あなたは「幸せになって」といった。
そして、長く、終わりのない旅に出た。
私にとっての幸せは、
いい家に住むとか美味しいものを食べるとかそんな事じゃなくて。ただ、あなたがいること。それだけで幸せ。
一緒に人生を歩みたかった。歳を重ねて。
でも、あなたを探すのはまたあとで。
あなたが隣にいないとしても、幸せな人生を送ってみることにした。
そして、私が長くて先が見えない旅に出て、またあなたと巡り会えた時。
今度は一緒に歩いていこう。