まろ

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波音に耳を澄ませて。

砂浜に並んで座っていた。
潮風はやわらかく頬を撫で、暮れかけた空は溶け合うように茜から群青へと移ろっていく。
砂粒が指の間を滑るたび、どこか現実じゃない場所にいる気がした。

波が寄せる音がする。
ザーッ、ザーッ、と繰り返し聞こえるその響きが、胸の奥で脈打つ何かとそっくりに思えた。

少し触れただけで壊れそうなものを、そっと胸に抱えたまま黙っていた。
隣にいるそのぬくもりが愛おしくて、でも手を伸ばせばきっと、今の静けさが崩れてしまう。

小さく息を吸った。
潮の匂いと一緒に、どうしようもなく膨れ上がった気持ちも肺に入ってきて、胸の奥がきゅうっと苦しくなる。

寄せては返す波の音。
その間に入り込むように、自分の心臓が高鳴っていた。
ザーッ、ザーッ、そのリズムにそっくりだ。

もしも今、この音に気持ちを紛れ込ませることができたら。
それはやがて、波にさらわれて届くかもしれない。
そんな淡い願いだけを抱えて、またひとつ、波が引いていくのを目で追った。

7/5/2025, 10:59:44 AM