「風に身を任せ」
私にとって風とは何であろうか。
朝、快晴の中、麦畑を撫でる風
友と過ごした桜舞い散る桜並木を走る風
家の雨戸を勢いよく叩く嵐の風
風は月が地球の回りを回って初めて生まれる。
私は風と聞き、一人ジメジメとした部屋に引きこもった時期を思い出す。
あの頃は外に出るのが怖くて、家の玄関を開けるのでさえ恐怖心を感じた。
そんな私を親は見てどう思っただろうか。みっともなく思っただろうか。
私はわたしが嫌いで、それでも私以外の何者にもなれないことを知っていて。
部屋の窓は締め切ったままだった。
外を見るのが怖かった。
普通に過ごしている同級生を、子供を見るのが耐えられなかった・・・私は怖かったんだ
そんなある日風を引いた。そりゃ引きこもって運動もせずに食事もロクに取らずにいれば当然ではあったが、苦しかった。しんどかった。辛かった。
本当に惨めだと感じたよ。
私は生きていていいのかとそんなことさえ思いもした。
そこへ母が部屋へ入って来て、ただ静かに窓を開けた。
何も言わず窓を開け私を見て小さく笑った。
「生きて」
私は泣いた。今までにないくらい、子どものように母の胸の中で泣きじゃくった。
昔に戻ったかのようだった。
その時窓からは夜の冷たい風が入り込み、母と私を包み込む。
肌は冷え、久しぶりの外の空気を感じた。
これからもう一度生きていこう。不安に感じても怖くても、泣いていても、もう一度立ち上がってみよう。
私にとっての風は新しい自分とでも言おうか。
私はそのときの風に身を任せ今も生きている。
また何かあって、挫けて倒れ、うずくまった時、
・・・その度にまた私は新しい風を見つけ、生きていくのだろう
著:蒼月 火凛
私達はいつまでも子どものままではいられない。
夢や希望、理想をひたすらに追い求める無邪気な子どものままでは・・・
けれど、だからといって大人になれたのかと問われれば、そうではない。
私達は皆、おとなになったフリを続けているに過ぎない。
現実を見据えたつもりで、世界をわかった気になって、なんとなく生活を送る。
昔の熱量も、不器用さも、輝く瞳も、純粋で明るい感情はいつの間にかどこかで捨ててきてしまった。
それは幼稚園の頃から始まり、社会に揉まれるたびに自身を曲げ、無機物になり、自信を放って、
期待しないように、信じないように、他人に興味を持つことなく、自分のすべきことをやっているフリ。
本当にしなければいけないことなんて、この世に何一つ無いというのに。
世間の言う幸せ、価値、自身の異様な愛。
貧困、環境汚染、暴力、戦争。
そんな大言壮語を吐いたところで自分自身何も変わらない。
すべて偽善の賜物。
小さな頃、本当に戦争のない平和を願った。
震災に苦しむ人を見て心から涙した。
人の役に立ちたいと、救い助けたいと心底思った。
みんなの憧れるヒーローになりたいと、志高く、プライド高く立ち振る舞った。
その頃の私が今の私を見るとどう思うのだろう。
これが将来の私かと落胆するだろうか、絶望するだろうか。
タバコを吸い、酒に溺れ、酷く凡庸な人生を歩んでいる何者でもない私に嫌悪するだろうか。
そうして現実を見て、味わって、感じて、小さな私もまた大人でも子供でもない存在になるのだろうか。
なら、私は子どものままでいいと、大人になりきれなくとも、現実を知り、突きつけられ、地面に転がるような思いをしようと、
胸を晴れる人でありたい。
子供に笑顔を向けられる人でありたい。
小さく凡庸な夢でも、恥じることない人で有りたい。
朝に飲むコーヒー、人とおしゃべりする時間、30分のランニング、真夜中にアニメや漫画を読む。
そんな幸せを夢だと、人生を彩り私を私たる者にしてくれるのだと、心から言える人間で有りたい。
それは子供ではない私だからこそ言える言葉だ。
私には愛が何かわからない。
よく映画や小説のタイトルに「愛を叫ぶ」なんてものがあるけれど、さて、それは本物の愛なのだろうか。
人はよく愛しているなどと言っておきながら平気な顔で浮気をする。
人を裏切る。私には海や崖で愛を叫んでいる人は自己暗示なのではと思ってしまう。
だから私には愛なんて不確定なものは信じない。あるかどうかもわからないものを叫ぶなんてもってのほかだ。
人からは冷たいように思われるかもしれない。さみしい人間、かわいそうな人。そう思われるかもしれない。
けれどそれが僕で、この事実を変えることはできなくて、ウソを付いて愛を信じている風を装うことはできるかもしれない。
もしかすると他の人もそうしているだけで実際のところは理解なんてしてなくて、心の底では信じてなんかいないのかもしれない。
そう思うと僕は余計に悲しい気持ちになる。そんなのは虚しいだけじゃないのか。
そんなありはしないものを信じて、頼って、言葉を吐いて、そんなのはあまりにも悲しい。
無意味に等しくて、無いに等しくて、、、
きっと愛とはある方が都合が良くて、ある方が道徳的で優しい。
だからみんなは信じることにした。あることにした。
ならば僕はそんなものを叫びたくはない。
愛を信じるでもなく探すのでもなく生み出したい。
それが私の今の気持ちだ。