スマイル
口の端っこを持ち上げて、はい。すまーいる。
家の恥ぢっ子を持ち上げて、はい。ばーいばい。
ばいばい、ばいばいだよ。
醜い腐ったこの家に、優しい優しいお前はいてはいけないからね。
お前がここを出る為なら、俺はなんだってするからね。
だからほら、向こうへお行き、恥ぢっ子ちゃん。
一人は寒くて、嫌だろうけど。
でも、それよりずぅっといいんだからね。
ほら、端っこのおまじないをしよう。
口の端っこを持ち上げて、はい。すまーいる。
ね、またね。
かわいいかわいい、我が子よ。
どこにも書けないこと
生きるっていうのは、基本抑圧だと思う。
自分の意識を外に出したことはない。
意見も思いもそう。
自我なんてもってのほか。
自分にたくさんの人の目という
重しを乗せて無理やり押し黙らせる。
押し込められて苦しくはなるけれど、苦しいだけで終わる。
大切な部分を、要は弱点を隠すから決して傷つかないで済む。
抑圧を、可哀想だと言う人もいるけれど。
それを鵜呑みにして自分を出して、
そのせいで傷ついたときに責任を取ってはくれないから。
可哀想だで終わらせるから。
他でもない自分を守るために生きることを、決してバレないように。
そのための抑圧を心に抱えること。
どこにも出さない、書かない、見せないこと。
優しさ
ぼんやりと月を見上げる者がいる。
あなたのことである。
ぼんやり光る月を、同様にぼんやりと、
無感情で感情を考えるように見上げているあなたである。
ぼんやり光る月がある。
”大切なこと”である。
大切なことは、無論大切で、大変大切で、
核たるものになりえる大切なものなので、
後生大事に浮かんでいるのである。
しかし遠くにいるのだから。
そうであるのだから当然手は届かない。
しかし、霧だって泣いているし。
雨だって、大声をあげるのだし。
あの日の空は、とても弱くて薄く凍えたから。
多分、多分、きっとそういうことなのだろう。
守れはしない。
ぼんやりと、月を見上げるあなたなのである。
守れなくとも、見上げる、見上げているあなたなのである。
特別な夜
特になんともない深夜にこそ人は弱る。
何もないの状態異常が体を
締め上げて、溺れさせて、痺れさせて、視界を奪って、蝕んでいく。
そんな夜にあなたが偶然いた。
そんな夜にあなたは偶然私の隣に座った。
大丈夫だよ。
なにが、とかなんで、とか言われてもわからないけど、
でも大丈夫だよ、絶対大丈夫だよ。
そんな夜に、あなたは偶然そう、言った。
言って、くれた。
それだけで今日は特別な夜。
私の状態異常が解けたそんな夜。