閉ざされた日記
私は空虚だ。実に空虚だ。
平々凡々な人間が平々凡々な日々を過ごす。
全くもって面白くない。
谷がないのは良いことだけれど、山がないのはよろしくない。
全くもってつまらない。
もしこれが演劇であるのならば、駄作間違いなしだ。
トマトも生ゴミも四方八方から投げ込まれることだろう。
途中退席者も出るだろう。怒号さえ飛び交うだろう。
いや、いや。
それさえも、ないのかもしれない。
私の空虚は、演劇には。
誰も、何も、観客がいないのかもしれない。
私の空虚は正しく空虚のまま、誰にも観測されず愛されることなく。
正しく、正しく空虚のまま。
空虚のまま。空虚のまま・・・。
私は、私は正しく、虚しい。
木枯らし
寒い木枯らしの吹く日にあなたは教えてくれた。
愛というものはね、最も手早くて簡易的な呪いなんだよ。
ずぶ濡れたコートみたいに、着ても脱いでも寒くって、
ぼろぼろの布団みたいに、あってもなくても苦しいの。
だから私は愛はいらない。
最初からなければ、知らなければなんともないのだから。
目の見えない人が、見えなくて可哀想
と言われてもわからないように。
耳の聞こえない人が、聞こえなくて苦しいね
と言われてもわからないように。
知らないことは、弱みだけれど大きな盾になってくれる。
だから愛を知らないままでいる。
これが私の選択。
でも、けれども。
木枯らしの吹く日にあなたが教えてくれたものは。
木枯らしの吹く日にあなたが与えてくれたものは。
あれは、愛ではないと言えるのか。言えるのだろうか。
美しい
親愛なるあなたは火葬
敬愛なる貴方は海の底
愛惜なる貴方は空の彼方
愛しきあなたは夜の奥
ひと雫のあなたはぽしゃんと落ちきって、もういない。
夜の霞に消え去って跡形もない。
水垢みたいにこびりついて私に残った貴方。
洗剤をつけて洗ってしまえばすぐに落ちてしまうでしょう。
けれど、落としてしまう理由がないの。
だって、だってとても素敵にこびりついているから。
愛が、愛があるから。
親愛なる、
敬愛なる、
愛惜なる、
愛しき貴方。
火で焼けて、
海に沈んで、
空に飛んで、
夜に消えてしまった。
愛している、愛しているわ。
信じてくれなくったって、愛しているわ。
だから、いつか。
きっといつか、あの水垢を落としに来てね。
きっといつか、また水垢をつけに来てね。
どうして
海の青に私はなれない。
空の青に私はなれない。
青春の青に私はなれない。
あの花の青に私はなれない。
あの風船の青に私はなれない。
道端に咲く青々しい草にも。
インクの壺みたいな夜にも。
こんなにも、心は青を求めている。
むしろ、求めているからか。
私は青にはなれない。
澄んだ透明にも、重い暗がりにも、深い静寂にもなれない。
青には、あの青には決してなれない。
どうしてなどとは言わない。
求めている。
なれないことを知っている。
それだけで、どうしての答えは出ている。
私は青にはなれない。
あの青には決してなれないのだ。
夢を見てたい
無地のベッドに横たわる。
別に無地ではないんだけど、
眠剤の過剰摂取で蕩けた目には無地に見える。
限界の眠気に甘んじて意識を落とせば
そこは夢の世界だった。
私の好きが繁茂した世界。
私の夢。
私の世界。
私の、
私の。
目が開いている。
朝日をとうに過ぎた夕暮れが見える。
やかましく鳥が鳴く。
起きた。起きてしまった。
怖い怖い怖い。
怖い。怖い。
怖いよ。
世界には、私の好きより私の怖いのほうがはるかに多いんだ。
私はちっぽけな存在。
ちっぽけな存在。
ちっぽけな、ちっぽけな。
雨戸を閉めて暗闇を閉じ込めて、もう一度布団をかぶる。
眠るの。眠らなくちゃ。眠いんだから。だって眠いんだから。ねぇ。
早く。早く。はやく。はやく。はやくはやくはやく。
ゆめを、みたいの。