ひゅうひゅうとという音につられ、上体を起こして窓の外を覗く。
季節はとうに秋になっていたようで、枯れ葉がひらりと風に手を引かれるように落ちていく。
見飽きた室内の中で窓の外は唯一私に娯楽を与えてくれた。
流され踊り舞う枯れ葉を目で追い続ける。
一枚、そしてまた一枚と落ち葉へ変わり無情にも片付けられる。
窓を開けて葉へ手を伸ばしたいが、鍵をかけられていて到底叶わない。
いつになったら、この病は治るのだろうか。
与えられた本は読み尽くした。
絵を書く紙もなくなった。
鉛筆も消しゴムもとうになくなった。
両親はいつの間にやらこなくなった。
看護師も必要最低限の用だけこなして消えていく。
枯れ葉はまだ舞っている。
これほどつまらない長生きならば、あの枯れ葉のように短く鮮やかに死んだほうがよほど良い。
退屈は人を殺す。
与えられた本の中にそういうフレーズがあった。
なんがしかの哲学書だったろうそれは落として怪我した日に捨てられてしまった。
あの本はどこへやられたんだろうか。
私の知らない遠くで誰かに読まれているんだろうか。
枯れ葉の数が減っていく。
木々はもう痩せこけて、冬を耐え凌ぐ用意をしている。
夏には凛と立っていた其れ等は見る影もない。
老人のようだ。私はそこまで生かされるんだろうか。
そこまでする意味はあるのだろうか。
気に入っていたあの本に、近いことを考えたものがあった気がする。
もう読み直すことも叶わない。
買い直すことも難しいだろう。
枯れ葉はもう落ちてこない。
窓を覗くのをやめて、上体を倒す。
真っ白な天井。繋がれた点滴。眩しいライト。
周りに散らばる遊び道具だったものたち。
もう一度、変化はないかと窓を見た時に気づく。
鍵がかかってない。窓を開けられる。
さっさと開けて手を伸ばしてみればよかったと後悔しつつ、思考はそこから発展していく。
ここは二階。下は芝生と低木。人通りは少ない。
降りることは、決して難しくはない。
そこまで思い至れば早かった。
点滴を無理やり外して、シーツをロープ代わりにして降りる。
初めての外は、ライトより明るくって、暖房よりも暖かい気がした。
ひらりと舞う枯れ葉が、木々が、芝生が。
窓の外の友人たちが私を歓迎してくれた。
私は本を読むのが好きなんです。
だって、その本には作者の価値観倫理観死生観が現れるんです。
特に、その主人公に。
今読んでいるこの本はそれが顕著に表れています。
私は主人公になりきるのが好きなのです。
次に呼んだこの本には、あまり其れ等が見られないね。
だからこそ高鳴ってくるんだ。
心の内を暴くような、強大な秘密を解き明かすような気分がする。
その次に読んだこの本は絵本なんだ。
ヒーローのお話だからめいっぱい書いた人の感覚が伝わってきて楽しいよ。
こういうふうに、さまざまな本を読み続けるのが好きなんですの。
それは俺自身の世界も広まっていくからな。
他人と脳を共有しているってゆーかんじ?なのかな?
不思議な感覚でまるで溶けてしまいそうになるよ。
まだ混ざるよ。
取り留めがないの。
辞め時を失ってしまってね。
・・・・あれまぁ。
わたしって、どなたかしら?
私は困りあぐねていた。
目の前に咲くは桜に桔梗、秋桜、椿。
それどころか庭に植えてあり全ての花々が開花している。
今の季節は冬。
椿やら牡丹はよかれども、その他の花々は全く季節ではない。
この家を貰い受け、荒れ果てた庭を整えもはや半世紀。
このようなことは今までになく、書物を調べても類似の現象は見当たらなかった。
咲いて、散る分にはまだいい。生きているのだから。
ただこのように季節外れに咲くのはこの子達にとってよくはない。
咲くこと、咲き続けること。
それに使う力はばかにはならない。
花の終り、散った末にこの子達は耐えきれず枯れてしまうのではないか?
私と人生の大半を共にしたこの子たちを、私は一斉に失うのか?
そんなことを思っていても、花の延命は出来やしない。
方法はあれど、このような敷地や立地では実行してやることが出来ない。
花が散り、じきに皆枯れて朽ちてしまった。
時期の子たちも、釣られるように狂い咲きのあとに朽ちた。
せめて弔ってやるべきなのだろうが、今はその気が起きない。
春になってようやく、皆に向き合う事ができた。
締め切った障子を開け、とうに荒れ果てているであろう庭を見る。
そこには、数多の新芽が芽吹いていた。
ああ、長年生きたお前たちはわかっていたのだな。
もう己の体が持たないことを。
だからああして、死期を早めてでも子供を残したのだろう。
置いていくのではなく、共に生きるために咲いてくれたのか。
一人でよかったのに。
誰にも目を向けられず、この世に恨みを抱かせて死なせてくれればよかったのに。
あんたが来てしまったから。
愛なんて教えたから。
おれを温めたから。
そして、全部中途半端なままおれより先に死んだから。
一人よりずっと辛いんだ。
こんな寒さがつきまとうんだ。
涙さえ、流す前に凍っておれの体を冷やしていく。
あの日のぬくもりさえなければいいのに。
あんたがおれにあわないで、好きに生きてたらよかったのに。
あったかいままでいたらよかったのに。
帰り道の玩具屋の前で何時も私は立ち止まる。
ショーウィンドウの中には、
沢山のかわいらしいおもちゃ達がいる。
その中の、一番隅に追いやられた子。
その子のためだけに私は今バイトをしている。
他のおもちゃに隠れてよく見えなかった値札は恐らく5桁を超えている。
それが売れ残った理由なんだろう。
同じ種類の子も何体か残っていた。
ショーウィンドウのあの子含めて、その子たち全員を迎え入れるために今まで奔走してきたんだ。
一等素敵な君。
今日は立ち止まるだけじゃない。
もう十分なまでに稼いできた。
みんなを丁寧にカゴに並べてレジへ連れて行く。
こない間に値引きされていたのだろう。
思ったよりも安かったこの子たちの頭を撫でながら家へ向かう。
ようやく家に着いて、改めてみんなを眺める。
ああ、さいっこうにかわいい!!!!