虹の始まりを探して
虹を見つけた。綺麗な虹。
虹を見つけると、毎回決まって見るところがある。虹がどこから始まっているのかだ。
本当は虹は、雨粒と光の屈折とかで見えるから、実態があって触れられるわけじゃない。それでも、私はどこから始まっているんだろう。と毎回思ってしまう。
今日も虹を見てそんなことを思っていた。
虹の始まりには何があるんだろう。
いつもは目で見るだけなのに、そんなことが気になってしまった私は、カンカン照りの夏の中、虹の始まりに向かって歩き始めた。
別に何か特別なものがあるはずない。
そんなことは分かっているはずなのに、今日の私は何かがあってほしいと願うように向かっていた。
歩いていくうちに、虹は少しずつ薄くなってしまっている。少し焦りながら、早足で向かい始める。
「なにかがあってほしい」 そう思いながら。
虹が消えるとほぼ同時に虹の端に見えたところに着いた。
そこには、やっぱり何も無かった。
「やっぱりね。」
そう思ったのに。
何故か私は、虹の端に向かって歩いたことを、後悔していなかった。
どこかの小さな夢を持った心が、虹を追いかけることを楽しんでいた。
オアシス
暑い外を歩いていると、とある店を見つけた。
なにか不思議な雰囲気を漂わせたそのお店に、私は吸い込まれた。
中に入ると、本がものすごく高くまで本棚に入っていた。本と、本棚の木の匂い、そして、心地よい冷房。
アンティークチックなそのお店には、説明書きがあった。
ここは、人によって中身が変わる店です。
独自の世界観を楽しんでください。
周りをみると、本以外にも様々なものがあった。
本、カメラ、ビーカー、黒板。
私の好きな物ばかりだった。
ああ、ここは、オアシス。
私はそう思った。
涙の跡
涙の跡を見せないようにしてきた。
泣いたと気付かれたら、申し訳なくなるから。
泣いてごめんねって、言いたくなるから。
ひとり、夜に泣いていた。
声を殺して、心を抑えて。
涙の跡はできなくなった。涙が流れないから。
それでも、見えないところに涙の跡があった。
「涙で赤らんだ君を、僕は見逃してない。」
泣いていない私を見て君は言った。
半袖
普段は長袖の君が、今日は珍しく半袖を着てきた。
真夏。川に行こうと誘ってくれた君は、川に足を突っ込んでバタバタさせながら
「川に来るって、普段しないでしょ?」
と言ってにっこりと笑った。
木陰の中で顔が綺麗に映っている君は、とても美しかった。
もしも過去へと行けるなら
もしも過去へ行けるなら私はどうすれば良かったんだろう。
あの時ああじゃなければ、今私を苦しめるものはないはずなのに。あの時なにも話さなければ、私は否定されなかったのかな。
過去へと行けるのなら、私は何をしていたのかな。今のいいことも、過去で何かしたら変わってしまうのだろうか。それなら、過去も怖い。
過去に行けるのは、御伽噺だけでよさそうだ。