「1番の宝物は何ですか?」
駅前でマイク片手にインタビューが行われていた。
ああ言ったのは苦手だ、どうにも恥ずかしくて逃げてしまう。
ふと、聞こえるのは
お金です
家族です
と言ったインタビューの回答だった。
どうにも、恥ずかしい答えばかりだ。
宝物は恥ずかしいのだろうか?
いや、恥ずかしいと思っている自分が嫌なんだろう。
いつからだったろうか。
自分の隣の世界が見えていた。
その世界は今の世界とあべこべで、とても自然だった。
その中の自分は自信があって、活力があって、希望があった。
鏡の中の様で、何処か違っていた。
いつからだったろうか。
本当に鏡の中にいる様になったのは。
いつになったら、変われるのだろうか。
自分が変われば鏡の中の自分は変われるのだろうか。
街を歩いていると、ふと覚えのある香りがした。
何だったかな、やけに思い出せない。
周りを見渡しながら歩き続け、思い出した。
カフェだった。
妙に甘ったるい、匂いのくせに何処か苦味があって
僕は苦手だった。
だけど、あの人は好んでいた。
何時も匂いを嫌がる僕を見て楽しそうに笑っていた。
僕も紅茶の香りは好きだった。
「愛を持って語り掛ければ伝わる物さ」
唐突だった。
その先輩は、前からよく分からない自論を会うたびに披露してきたのだが
今回は何時もより突然で、意味不明で、僕は何も返せずに、ただただ先輩を見つめていた。
「愛は言語を超越し、種族をも越える力を持っている」
まさかの解説付きだった
なんと言うか、何時もよりウザい。
常時めんどくさい先輩だが、今日は特別だ。
「先輩?どうしたんですか?」
先輩は固まった。
そんなに僕に聞かれるのが嫌だったんだろか?
ちょっと涙目だった、
と言うか泣いていた。
「後輩よ、よくぞ聞いてくれた。
この前話していた彼女なのだが」
「あっ、めんどくさいので辞めときます」
では、と言って先輩から急いで離れる。
チラッと振り返ると先輩はやはり固まっていた。
まぁ、よくある事なので気にせず行こう。
確かに、先輩のめんどくささは言葉を超越していた様に思えた。