お題『たくさんの想いで』
休日明けの月曜から1学期の期末テストの結果が教科ごとに順次返却され、本日金曜日の昼休み休憩後に夏季補習生の発表が職員室前の掲示板で張り出されることになった。萌香達は5時限終了後10分という短い休憩を使い職員室前の掲示板を見に来ていた。
萌香『どうか、補習生に入っていませんように』
萌香は心の中で祈りっている。掲示板から少し離れた距離で真珠星(すぴか)達は萌香を見守っていた。
返却されたテストの結果を見れば、掲示板へ行かなくても一目瞭然なのだが、安心感を得たいのだろう。萌香と同じように数人ほど自分の名前を探している。
5分後俯いた顔で萌香は戻って来た。心配になった委員長が萌香に声を掛けた。
委員長「輪通(わづつ)さん、どうだったの?」
萌香は顔を上げ委員長の問いに答えた。
萌香「……名前……あった」
真珠星「本当に?」
萌香「うん……。やだよ〜補習〜」
萌香は涙目になって真珠星に抱きついた。
真珠星はやれやれと言わんばかりに萌香の頭を撫でる。委員長が優しく萌香に声を掛けた。
委員長「輪通さん、補習が終われば夏休みが始まるじゃないの。予定が合えば一緒に遊びましょう。私(わたくし)輪通さん達とたくさんの想いでを作りたいわ」
萌香は委員長の言葉で元気を取り戻し、真珠星から離れ委員長の両手を握りぶんぶんと上下に振りながら感謝していた。
End
お題『冬になったら』
双子の姉からの手紙の書き出しは大体決まっていた。
『“春“になったら〜』、『“夏“になったら〜』、『“秋“になったら〜』と四季が入っている。
今回届いた手紙の書き出しは『“冬“になったら』
だった。今、季節は夏真っ盛り。季節外れにも程がある。手紙の内容はこうだ。
『愛する妹へ 冬になったらあなたは何をしていますか?私(わたし)は雪で雪だるまや、かまくらを作るのが好きです。もう15歳になるのに子供っぽい遊びをするでしょ(笑)だって田舎だもの。この前、村の集会で長老達が話している内容を偶然聞いてしまいました。私は16歳の誕生日に見知らぬ男性と結婚させるらしいのです。村の掟に基づいて。………助けて!可崘(かろん)私はまだ結婚したくない!それに彼氏もいるのよ!お願い!!助けて!!』
最後に書き殴った文字を見て私(わたくし)は怒りと寒気がした。
【私(わたし)の代わりになって】
冬になったら私は16歳になる、その時私の未来はどうなってしまうのかしら……。
End
お題『はなればなれ』
家族と離れ離れなってもう10年も経った。
私(わたくし)は5歳の頃に今住んでいる(父方の祖父母の)家へ預けられた。
家のしきたりとかなんとかで……。
私が13歳になった頃祖母が教えてくれた。
私の家系では双子が産まれると禍いをもたらすとされているらしい。だから3歳の時に何かしらの試験を行い、出来が悪い方が“禍い子“となる。つまり今、祖父母の家で暮らす私は“禍い子“として両親から嫌われている。2〜3ヶ月に1度、双子の姉から手紙が届くその内容が本当のことだろうか…… 。
だったら私は両親と離れ離れになって幸せと思う。
優しく我が子のように愛情を注いで育てくれている祖父母に私は離れたくない。そう強く思うのだった。
End
お題『子猫』
スーパーから家に戻り早速闇鍋風ピザ作りの料理を始めた。完成するまで約2時間半ほど掛かってしまいもはや昼食ではなくおやつの時間帯になろうとしていた。ピザの完成度は美味しい箇所最高だった。しかしチーズとの組み合わせの悪い食材の箇所はなんとも言えない味のようだ。一言でいうと不味い。
4人はピザを食べ終え、今度はポテトチップスやスナック菓子を食べ始めた。
大神が1枚ポテトチップスを食べ終えて話出す。
大神「船星、一つ質問ええか。あのBBQの時に物陰から見てた女子にお前は何をしようとしてたんや?好きで見てたと違ういうとるし……。他に考えるとしたら……痴漢か?あかんでそれは犯罪やで」
僕は慌ててすぐさま反論した。新たな誤解を生まない為に。
船星「ちちち、違うよ!そそ、そんな事考えてないよ」
僕はゴクリと唾を飲み意を決してあの時思ったことを正直に話した。
船星「昼休み僕らグランドでサッカーをしている時屋上で叫んでいる女子がいたよね。一時期その子を“子猫“ちゃんって大神君が言ってたの覚えている?」
大神は首を傾げていた。どうやら忘れてしまっているらしい。僕は続けて話す。
船星「その子猫ちゃんを偶然BBQの時見つけた僕は、屋上から誰を呼んでいたのかどうしても知りたくて……話掛けようとしていたんだ」
生徒A「別に誰でも良くね?」
船星「そ、そうなんだけど。僕、何か気になることがあると納得するまでずっと気になってしまうんだ。それに……僕の思い過ごしだと思うんだけど、一瞬だけ目が合った気がしたんだ」
生徒B(まるた)は同情した眼差しで船星の肩をポンと叩く。
まるた「船星の気持ちはよくわかった」
船星「ほ、本当!?」
しばらく黙っていた大神は急に立ち上がり船星を見下ろし人差し指を差し一言放った。
大神「お前やっぱナンパしようとしてたんか!?」
船星は心の中で叫んだ。
『どうしてそうなるんだよ〜〜〜!!」
僕は正直に話す相手を間違ったかも知れない。
End
お題『秋風』
船星(ふなぼし)の家の近所にあるスーパー内で漢気じゃんけんをして負けた大神は生徒A、Bを見て呆れていた。
大神「お前ら、船星を見習って少しは遠慮せぇや」
生徒B「負けた奴が悪い」
生徒A「うん、うん。女々しいこと言うなよ」
船星「お金足りなくなったら僕が出すよ」
大神「だ、大丈夫や。気にすんなや」
と言った後会計をすると大神の有り金を全て出しても足りず不足分を船星が支払った。
大神「船星、ごめんなぁ。足りんかった分はバイト代入ったら返すわ」
船星「別にいいよ」
大神「あかん!金の貸し借りはきっちりせんと。どんなに中の良え恋人や夫婦でも“秋風が吹く“って言うやろ」
生徒A「それを言うなら“金の切れ目が縁の切れ目“じゃね?」
全員一瞬沈黙の後大神を除いた3人は爆笑していた。
大神は恥ずかしくなって一足先にスーパーを出て行ってしまった。3人は慌てて大神の後を追う。
秋風が聞こえてくるのはまだまだ先、夏の暑い日差しの中大神達は船星の家に帰って行くのだった。
End