あなたの町に降る雨が
どんな音をしているか
ぼんやり想像してる間に
わたしの窓でも雨粒が
ぽつりぽつりと歌いだす
静かな午後のにちようび
春のまんなかなたね梅雨
浅く眠って夢をみて
さくらの花の散る頃に
あなたに会えるその頃に
#ところにより雨
ふらりと帰ってきたおまえは
声を失っていた
どこかよそよそしくすらある
ここはおまえの居場所だからと
ずっと守ってきたけれど
じっとこちらを見つめる
おまえの緑の目が物言いたげで
だがわたしにはわからずに
おまえのまるい身体を引き寄せて
温度をたしかめて
こうやって
撫でることしかできない
去り際にこちらを向いて
口を二度あけて
だが声はきこえなくて
それは挨拶のつもりかい
帰ってゆくおまえの姿が
とても猫らしくて切なかった
#特別な存在
あの頃にはきみがいて
学校に行けなかったわたしの
いちばんのともだちだった
きみは人間みたいな表情で
わたしをいつも見つめてくれた
ひとりで食べるごはん
ひとりで食べるおやつ
コップの中のソーダ水がはじけて
その向こう側にいつでもわたしは
希望のかけらを見つけようと
目をこらし
そしてあきらめた
きみはもう
遠いところへ行ってしまった
本当はきみのこと
思い出さないようにしていた
胸がひどく痛くて
心が壊れてしまったんだ
わたしはこんなにも歳をとり
きみのいない世界で生きている
今は新しい家族と一緒に
今日もこうして生きている
きみと一緒だった夏を
春を 秋を 冬を
今も大切に思う
ふたりしか知らない秘密も
やがてこの地に還るだろう
そして空に還ったきみを
いつかまた追いかけてみたい
きみとの時間こそが
わたしを希望へと導いたのだ
#二人ぼっち
もう手放してしまうがいい
そこにとどまらずに
持つことは
きみを不自由にする
この不条理の波にさらわれ
転覆してしまう前に
#不条理
知れば知るほどに
なにも知らなくて
時間が足りなくて
歳をとるほどに
知りたいことが
増えていく
まだ知らない
野の花や鳥の名前
宇宙のふしぎ
自分自身のことさえ
ほんとはわかっていないのだ
なぜこんなにも
あなたのことが
知りたいのかも
知れば知るほどに
なにも知らなくて
小さな自分が
ぽつりと立って
宇宙を吹く風が
耳のそばで
歌うように鳴いている
#もっと知りたい