《この杯を》
「さよならだけが人生、なんて言葉があるけど。またの再会を約束して、今はこの杯を受け取って」
そう言って君がなみなみと注いだグラスを僕に渡す。
僕はそれを受けとり、笑って、乾杯した。
「さよなら、なんて寂しいから言わないよ」
「そうだね。またいつか」
「うん。約束」
いつかまた、ここで君と笑って酒を飲める日が来る日を願って。今は一度、お互い別の道を歩もうか
《このままずっと》
楽しい時間はあっという間に過ぎる。
「帰りたくないなぁ.....」
そんな呟きも君には聞こえない。
繋ぐ手から伝わる熱が冷めるのが惜しくて。
君の隣を歩く時間が過ぎるのが寂しくて。
「また今度」
その言葉を聞きたくなくて。
終わらせないで欲しいんだよ、この時間を。
《眩しい光に焼かれる》
あの人は笑顔が似合う人だった。
太陽の下で、太陽に負けないくらいの明るい笑顔を見せてくれる人だった。
周りも明るくするような人。
眩しいくらいに明るくて、みんなに好かれてた。
あの人の顔を思い出すと、必ず笑顔が思い浮かぶ。
そんな人の隣に立った時に、自分の暗さがより目立ってしまうことだけが嫌だった思い出がある。
あの人は悪くない。
でも、そんな私の嫌悪感を知らないで隣に立つあの人を
私は心のどこかで嫌っていたのかもしれない。
《冬の気配》
「寒ッ....」
目覚めて肌で感じる布団の外の温度に思わず震えた朝。
確か今日の天気は晴れ。気温は....
「うわ、1桁かぁ。もう冬だな」
秋の肌寒さを通り越し、身に染みる寒さを感じるようになった最近。
流石にもう少し厚手の服じゃないと風邪ひくな、なんて思いながらクローゼットを開ける。
「あったあった」
去年ぶりのセーターを引っ張り出し、冬用のコートも取り出す。
セーターに袖を通すと、いよいよ本格的な冬を感じる。
《意識が沈む》
今日は兎に角ツイていなかった。
雨で髪はうねり、車が水たまりを通ったせいで水が跳ねて服が濡れた。
仕事では凡ミスをしたし、欲しかったスイーツは売り切れてた。
帰宅してベッドに身を投げ出すと、どうしようもない暗く重たい感情が頭を支配する。
疲労も蓄積していたせいで、瞼が落ちてゆく。
意識がゆっくりと暗闇に落ちてゆく。
このまま落ちてしまえば、また意識が上がる頃にはスッキリするだろうか。
そんなことを考えながら、私は意識を手放した。