《思い出す日々》
(刀剣乱舞/燭台切光忠)
時々夢を見る。
あの日。揺れる地面と迫り来る火。
そして開かれた扉から一瞬見えた人の顔と、眩いほどの光。そして熱。
気がつくと身体中が真っ黒で、「これはダメだな」と終わりを察したこと。
そして思い浮かぶのは伊達家や水戸徳川家で出会った刀や人々の事。
これを人は《走馬灯》と呼ぶのだろう。
別れの言葉も言えず去ることの悔しさや悲しさを感じながら、朦朧とする意識の中。
炎とは違う熱を感じながら、意識を失ったこと。
気が付くと、あの日の傷を抱えたまま生き長らえていた。
最早日本刀とも呼べぬ、鉄屑同然の己を愛おしむ人々へ
別れの言葉はまだ言わなくて済んでいる事を。
そして今。
審神者の手によって励起され、その手に抱える自身は在りし日の己自身。
「僕はまだ、刀として戦えるんだね」
長船派が祖・光忠が1振り、燭台切光忠。
刀としての自身に別れはまだ来ない。
《時雨》
(刀剣乱舞/亀甲貞宗)
冬の寒さが見えそうな晩秋の日。
突然雨が降り出し、低い気温なこともあり、一気に寒さを感じた。
「通り雨。いや、この時期だと時雨か....」
部屋の中にいても感じる冷たさに、思わず羽織を纏う。
静かな部屋に響く雨音と冷たくする空気は、晩秋ならではであった。
「こういう経験も、ご主人様に呼ばれたからこそだね」
《秋の匂い》
(刀剣乱舞/太鼓鐘貞宗)
「なんか、すげぇ甘い香りしねぇか?」
「甘い香りするね」
遠征に出ていた太鼓鐘と燭台切は、ふと甘い香りが漂う事に気が付いた。
「なんだっけこの香り?」
「うーん....」
2振りが首を傾げていると、その前を歩いていた鶴丸国永が「貞坊と光坊は分からないのかい?」と笑った。
「金木犀の香りじゃないか!ほら、そこを見てみろ。金木犀の木が植えられている」
鶴丸が指を指す先には1本の金木犀が植えられた民家が見える。
「金木犀か!そういや景趣であったよなー!」
「秋の香りだよね」
「秋は美味しい食べ物も多いしな!」
甘く香る金木犀
艶やかに実る葡萄や林檎
鮮やかに染まる紅葉
秋の足音はすぐそばまで聞こえる。
《外の世界の自由をもう一度》
(刀剣乱舞/物吉貞宗)
戦の折に、腰に帯びると必ず勝てた事から付いたとされる号。
幸運を運び、勝利を運ぶ刀。
かつての主と共に見た外の景色は、時に美しく、時に残酷なものだった。
しかしそれも随分と昔の話。
戦の世は、その元の主によって閉じられ、泰平の世と成った。
そして時代が進むにつれ、刀の時代は終わり、今となれば美術館に収められている。
「外の世界が恋しいなぁ...」
窓から見える景色は、何十年もすれば代わり映えのないもとなった。
「家康公の刀の皆さんにもお会いしたいですねぇ....」
窓から見える青空は遠く、今はこの手を伸ばしても届かない世界。
いつかまた、あの頃のように外の空気に触れ、景色をこの目に映せる日は来るのだろうか。
物吉はそんなことを思いながら、今日も狭い世界の中に居る。
《形なきものを形に》
(刀剣乱舞/蜻蛉切)
想いというのは形がないもので、どうにか伝えたいから言葉を綴り、行動に移すのだという。
「人はそれを"愛"だと呼ぶのでしょうな」
話の発端は、先日修行より帰還した千子村正の事だった。
妖刀伝説に惑わされる話を、本人も手紙に綴っていた事から、「なぜそんな噂が生まれるのか」から話が変わり、
言葉や想いという形の無いものの話になったのだ。
蜻蛉切にも梵字が彫られており、それもまた形の無い"願い"や"想い"といった心を、形にしたものだと。
「自分を形作るのは人の想いであり、元の主の生き様もありましょう。そのようなものも、形の無いものであると思います」
勇ましい体と強き精神を持つ蜻蛉切という刀剣男士もまた、かつての主・本多忠勝の生き様が反映されているのだと。