♯枯葉
気が付いたら森の中に寝ていた。
見知らぬ場所である。
私は制服を着ているのを確認する。
自分の高校の制服。
名前は…ちゃんとわかる。
胸のポケットから生徒手帳を出し、
記憶と相違がないか確認する。
少し離れた場所に靴が転がっているのが見えた。
他に自分の持ち物らしきものは…?
手足が動く事を確認し、靴を履き、周囲を探索する。
シャク、シャクと森に積もった枯葉が音を立てる。
水音を頼りに沢に出た。
このまま川を下って行けば人里に出るのかな?
見慣れぬ植物に嫌な予感を覚えつつ、
ズキズキとしてくる頭を抱える。
これって…もしかして異世界ってやつ??
学校の階段から落ちたのは覚えてるんだよなぁ。
♯今日にさよなら
寝ようと思えば思うほど寝付けない
目を閉じると余計に色んな音が気になったり
身体が暑く感じて落ち着かなかったり
寝返りをうちながら時間だけが過ぎていく
そろそろ寝なくちゃと思うけど難しい
そう思ううちに微睡んでいく
明日の自分は生まれ変わっているだろうか
嫌なことも全部呑み込んで
今日に
さよなら
♯お気に入り
教室の扉を開くと今日も甘い声がする。
「あ、牧くん!おはよう!」
ふわふわとした髪を靡かせて花崎が近寄ってくる。
「…おはよう」
少し距離をとりつつ席に向かう。
席に着くと隣の席の田中に話し掛けられた。
「おはよ。なあ、もうちょい愛想良くしてあげれば?」
「おはよ。え…なんで?」
困惑して訊ねる。
「なんでって、どう見てもお前に気ぃあるじゃん?」
「そうよー、少なくともお気に入りっぽいし。さっきそのんな話してたよ」
反対側の席の小川まで話に加わってきた。
「ええー、お気に入りって俺、物や飾りじゃないし嬉しくないんだけど」
「え、酷い。冷たくない?」
聞こえたらしく酷くショック受けた顔で花崎がこっちを見ている。
「いや、仲良くしたいとか言われたら嬉しいかもだけど、そんなお気に入りとか物みたいに上から目線ぽく言う方が酷くない?ホストとかアイドルみたく自分を売り出してる訳でもないし」
なんか泣きそうな顔で見られた。
こういう子、苦手すぎる。
「ああ、確かにな〜!変な気の回し方してすまん!花崎も深堀してすまんかった!」
田中が冗談ぽく濁してくれた。
「いや、空気悪くしてごめん」
自分でも謝った。
言葉って難しい。
♯誰よりも
高みを目指して
誰よりも
誰よりも
上を目指して
そこで掴むものが
宝物であるように
**
「今日もすごかったな!」
チームメイトが肩を叩く。
「やだなー、まだまだだよ」
汗を拭きつつ答える。
「うちのエースアタッカーは貪欲だなぁ。
なんであんなに高く飛べるの?」
「気合い!」
「即答かよ!」
♯10年後の私から届いた手紙
**
10年前のわたしへ
信じられないかもしれないけれど、
10年後から書いています。
自分に手紙を書くなんて変な感じですね。
信じられないと思いますが、
そんな事もあるかもしれない。
それくらいの気持ちで受け止めて貰えれば幸いです。
今は色んな夢に、将来を決めかねているかもしれませんが
夢が叶う事はありません。
運命的な恋にも落ちませんし、
突然の異世界転生なんてものもありません。
うちの経済状況をみればわかると思いますが、
大学進学も難しいです。
母親の発言に振り回されなくていいです。
自分ができなかった理想を押し着けているだけです。
あなたはあなた。
苦しい時は母親に相談しなくていいから、
他の人の話を聞いたり病院行ったりしていいんですよ?
愛されたいのはわかるけど、
執着してはだめ。
自分の好きなものは幾つか持っておくと良いです。
残念な事に私は人との関わりが下手なのです。
友達は中々出来ないし、維持が難しいです。
趣味をたくさん持ちましょう。
こんな事を思いつくままに書き連ねたけれど、
毎日充実しています。
結婚して子どもも持てます。
その時困らないようにひとつずつできる事を増やして、
資格勉強や家事など頑張りましょう。
**
「何読んでるの?」
後ろから声を掛けられる。
「んー?手紙?読んでる」
「なんか当たり障りない事しか書いてなさそうじゃない?」
「そうかなー?なんかわかる所もあるよー?」
「占いみたいだよね。当たるかな?」
「どうだろ。でも悪くは無いのかも」