♯お気に入り
教室の扉を開くと今日も甘い声がする。
「あ、牧くん!おはよう!」
ふわふわとした髪を靡かせて花崎が近寄ってくる。
「…おはよう」
少し距離をとりつつ席に向かう。
席に着くと隣の席の田中に話し掛けられた。
「おはよ。なあ、もうちょい愛想良くしてあげれば?」
「おはよ。え…なんで?」
困惑して訊ねる。
「なんでって、どう見てもお前に気ぃあるじゃん?」
「そうよー、少なくともお気に入りっぽいし。さっきそのんな話してたよ」
反対側の席の小川まで話に加わってきた。
「ええー、お気に入りって俺、物や飾りじゃないし嬉しくないんだけど」
「え、酷い。冷たくない?」
聞こえたらしく酷くショック受けた顔で花崎がこっちを見ている。
「いや、仲良くしたいとか言われたら嬉しいかもだけど、そんなお気に入りとか物みたいに上から目線ぽく言う方が酷くない?ホストとかアイドルみたく自分を売り出してる訳でもないし」
なんか泣きそうな顔で見られた。
こういう子、苦手すぎる。
「ああ、確かにな〜!変な気の回し方してすまん!花崎も深堀してすまんかった!」
田中が冗談ぽく濁してくれた。
「いや、空気悪くしてごめん」
自分でも謝った。
言葉って難しい。
2/17/2024, 6:04:38 PM