同じフロアの川畑さんは超がつくほどのキャリアウーマンだ。テキパキと業務をこなし、人を選ばず平等に接してくれる。皆口を揃えて「流石」や「やっぱり」と言った信頼をよせた言葉を言う。私、山村香織もその1人だ。まだまだ頼りない自分を気にかけて、何度でもきちんと教えてくれる。今時いない様なカッコいい「出来る女」の川畑さん。
休日に私は友人、佳奈子と最近出来たというスイーツショップで季節限定贅沢イチゴパフェを食べに行った。
「あ〜…甘くて溶ける〜♡やっぱりパフェはイチゴパフェだよねー♡」
「分かる。分かるけど…あたしはチョコパフェも好きー!」
「佳奈子って本当チョコ好きだよねー。でも限定には勝てない…っ!」
等と話していると、隣の席のお一人様がイチゴパフェとプリンアラモードを注文して幸せそうな笑みを浮かべていた。
「…川畑さん…?」
「ふにゃっ!?……や、やまむにゃしゃん…?」
「え、なんて?」
慌ててパフェのイチゴを飲み込んだのか咽せる川畑さん。
「山村さん…あ、あの、えっと」
オタオタするあの川畑さん。
「会社の皆には内緒にしてて!甘いの苦手って…カッコつけてるだけで、その」
「大好きなんですね、スイーツ」
「…めっちゃ好き…」
え、可愛い。何この可愛い人。
「私もスイーツ好きなんですけど、会社の人には言ってないんです。だからお互いだけの秘密にしませんか?」
パッと表情が明るくなった川畑さん。「うんっ!」と子供っぽく返事をして、スイーツ秘密同盟が組まれた。
誰もが憧れる川畑さんの、とっても可愛い秘密
「誰もがみんな」
小さい頃は純粋に笑う事が出来た。
大人になるにつれて嘘の笑いを覚えた。
仕事では常に笑顔でいる事を強要された。
長年の癖ですっかり顔に張り付いた偽物の笑みは本当の笑みを殺した。
家族や友達と話してる時ですらこの仮面は取れない。顔の皮を引っぺがしてしまいたい。誰か、誰か、お願い。
数年前に出会った貴方だけがパッと見抜いてくれた。
「無理に笑わなくて良い」
その一言に救われた。だから貴方といる時だけは子供の頃の様な素直な笑顔でいられるの。
「スマイル」
どこにも書けない事を書け、とは正直言って無理だと思った。言いたく無い、言えない様な事がいっぱいありすぎて。クルクルと頭の中でペンを回す。
本当は秘密だけど、ギリギリ言っても良いラインの話。
転職してから体重5キロ増えた
「どこにも書けないこと」
時間は意地悪だと思う。忙しい時や楽しい時と、退屈な時で進み方が全然違う。
多分間違いなく一緒な筈なのに、きっとずぅっと「時間が足りない」や「何しようかな」の問答を繰り返すんだろう。
こうしている間にもチクタク時計は進む。
「時計の針」
初めて出来た彼氏。毎日おはようからおやすみまで連絡を取り合って、用事がない休日はデートして。折角だもん、可愛いって思って貰いたいから慣れないファッション雑誌を見ながらコーディネートを考える。でも大体は姉に確認してもらう。
「お姉ちゃん、これ変じゃない?大丈夫かな?」
「んぅ〜?だいじょーぶだいじょーぶ。かわいいよーん」
「お姉ちゃんっ!もーちゃんと見てよ!ってやだ、アイスついちゃう〜!」
「はいはい、わかったわよ。うるさいんだから」
「ねぇ早く。遅れちゃう」
「待ちなさいって…はい、OKよ」
「本当?ありがとっ!」
「デートでしょ?彼氏の写真後で見せなさいよ〜?」
…ニヤニヤしてる。絶対見せてあげない…っ!
ポコン「あと20分位で着くよ。…楽しみにしてる」
口元が緩む。っていけない、急がないと。
「…あんたにやけ過ぎ。彼氏に引かれない様に気をつけなさいよ?」
ぐぬぬ…悔しいけど正論…。マスクがあって本当に良かった。
「〜っ、行ってきます!」
待ち合わせ場所で彼が来るのを待つ。そわそわ。
「ごめん、お待たせ」
「う、ううん。私もさっき来たばっかりだから」
「行こっか」
スッと私の右手を握ってくれた。えぇ…最高過ぎて無理ぃ…。
道行く人達にすらきっとバレてるんだろうな。後ろも振り返れない。きっと沢山の愛の花を咲かせてしまっているから。
「溢れる気持ち」