10年後の私から手紙が届いた。
恐る恐る封を開けた。
中にあった便箋には何も書かれてなかった。
そりゃそうだよな。
私、昔から手紙書くの大の苦手だからね。
「今日は女の子からチョコ貰う日なのにまさかお前から貰うなんてなあ……」
男は親友からしょっちゅうお菓子を貰うのだが今日貰ったのはチョコレートだった。
「……誰からもチョコを貰わなかったよりまだマシだろ」
親友はそう言ってるがそういう問題ではない。今年も女の子から貰えなかった現実が男は悲しいのだ。
ふと男は去年のバレンタインを思い返す。まさか去年今年と連続で同じ人物からチョコレートを貰うとは。
「俺はお前がチョコ貰えなくて悲しむところを見たくないし、いっぱい食べるお前が好きだぞ」
「うるせえな。慰めになってねーよ」
今年のバレンタインも食べたチョコレートの味もかなり苦かった。
『まだ?』
「ごめんもうちょっと待ってて!!」
「待ってて」とメッセージ送ったけど怒ってないかな?
あの人のことだから先に行ってしまいそうな気がする……
久しぶりに二人一緒にでお出かけだからおめかしに気合い入っちゃうもんね!
……といいたいけど服の組み合わせに悩んだり不慣れなメイクに時間かかったりで遅刻確定。
「お……お待たせ……」
やっと集合場所へ来た。けど走って来たから息が苦しい。
あの人今日はびっくりしないかな?と、ちょっと期待してたけどなんか「遅いぞ」言ってるし冷ややかな顔をしてるし……遅れて来たことやっぱ怒ってる。
「……ほら飲めよ」
渡された炭酸飲料はひんやりしておいしい。
今日のあの人は珍しく遅刻に対して怒ってないどころかジュースまでくれるなんて……優しいなあ。
どこか優しい一面があるからやっぱり私はあの人のことが好きなんだ。
「待った分に飲みもん奢ったんだからさ、後でなんか奢れよな!」
でも余計なところは好きじゃない!!
「はい、糸電話だよ」
「んだよガキの遊びじゃねーか」
彼女から渡された紙コップ製の受話器を渋々受け取りながら彼は耳に当てる。
「それじゃあ言うねー」
電話線がぴんとしていることを確認した彼女が受話器を口に近づけた途端彼は受話器を持つ手を少しゆるめた。
聞かなくても伝えたいことは何なのか分かる。
ゆるんだ電話線に気がついた彼女が「今の聞いてないな?」と問い詰めたが、彼はそれを言い当てると彼女はご満悦な表情になった。
原っぱと木があるだけの中庭――昼休みを過ごすには都合のいい場所。
お前と出会って間もない頃この場所でよく話をした。
打ち解けからも晴れた日の昼休みはここで過ごすこのがお決まり。
騒がしい食堂で昼を食べるのもいいが、売店で昼飯を買って騒がしさから離れたこの場所で食べる方が好きだ。
今日は雑誌の発売日。お前は「早く読みたいから」と急いで昼飯を食べ終えると雑誌を読み始める。
黙々と読むところを邪魔する訳にもいかずこちらは寝ることにした。
太陽の光が暖かい。
話ができず退屈な時間ではあるがたまにはそれも悪くない。
一緒に過ごすことが自分にとってのささやかな楽しみ。
「おーい、そろそろ起きろ」
お前に起こされるのは好きなんだがそれは同時に昼休みの終わりを告げる合図。
じゃあまた後で、と別れを告げてこの場所を後にした。