(同性愛です)
君が紡ぐ歌はいつも、冬の匂いがする。
「あっ、先輩っおはようございます」
「うん、おはよう」
ふわりと笑みを返すとその後輩は心底嬉しそうにして手に持っていたギターを置いて駆け寄ってくる。
高校3年の10月。
部活はとうに引退し、受験勉強真っ只中のこの時期。
朝早く来ては、この軽音部の部室に寄ることが日課となっていた。
彼がひとり、歌を紡ぐのを聴き、その横で勉強をする。
「…先輩、もしかしてあんまり寝てないですか?なんかやつれてる」
「え、そうかな?」
「…勉強忙しい?」
「んー、そこそこかな。1年2年のときと変わらないかも」
心配させたくなくて小さな嘘を織り交ぜた。
それでも尚彼は心配そうに、少し寂寥が滲んだ顔を伏せた。
「…無理して朝早くここに来なくてもいいですよ…?そりゃ来てほしいって頼んだのは僕ですけど、先輩の邪魔にはなりたくないですし…」
伏せる睫毛が震えている。
そんな弱々しい声は俺を気遣ってくれているものなのだろう。
俺はいつも勉強している定位置の椅子に腰を下ろし、彼を手招きする。彼は不思議そうに恐る恐る近寄ってくる。
「わっ…!ちょっ…せんぱ…っ、」
「嫌だったら離すから言ってね」
「っ、」
彼は俺の腕の中でふるふると首を振った。
染まる首裏の赤がかわいい。
「…俺がここくるの嫌?」
「え…!?そなっ、」
「本当に嫌なら来ないようにするけど、俺は来たいからなぁ」
「っ…、ずるい、せんぱい…」
ばっと振り返っては顔を染めて両手で顔を隠す彼。
俺が卒業して、彼も卒業するまであと1年と半年近く。
2度目の桜が待ち遠しい。
君が紡ぐ歌 #228
(帰ってきました…!一段落ついたのでなるべく書きたい…!
書くの久々すぎてめちゃくちゃ時間かかったし、なんか収拾がつかなくなった)
きみの気分次第で、青になったり、赤になったり。
最近はね、青が多くて、実はちょっとうれしいんだ。
信号 #227
(赤信号=来るな、青信号=ご自由にどうぞ)
一緒にいたい。
この関係を壊したくない。
親友として隣にいられるならそれでいい。
彼が幸せならそれでいい。
身勝手な想いは伝わらないままでいい。
そう思ってるのは、ほんとうなのに、
言い出せなかった「」 #226
どれくらいこうしていただろう。
沈黙は苦手なはずなのに、彼との沈黙は不思議と嫌ではなかった。むしろ、何故か酷く落ち着いた。
さっき買ったばかりだったはずの炭酸のペットボトルから、つうと一筋、結露した雫が滴り落ちてそのままアスファルトに小さな水たまりを作る。
ぼーっとそれを眺めては、頭を乗せていた彼の肩の上。俺の頬を伝う透明な涙は、隣にいるのが彼だからこそ、だろう。
ぬるい炭酸と無口な君 #225
からころ、からころ。
俺と彼の間でなにかが波打ち際みたいに揺れては引いていく。
そのなにかを明白にしない今の距離が心地よくて。
「…まだ、帰りたくない」
「!…えぇ、しかたないなぁ」
ワンテンポ遅くなる会話。
彼があいつの拗ねた口調を真似したから、こっちも口調をのんびりとしたものへと切り替えた。
彼の物言いにあいつを思い出さなかったと言えば嘘になる。
俺は彼を彼として扱いながらも、あいつと重ねている。
それはまた彼も然り。
だってこれは意図的に重ねさせて重ねる。そんな、歪で中身を伴っていない関係。
俺も彼もお互いを好きなわけじゃない。
恋人ともセフレともちょっと違う。
恋人(代替)という表し方が一番近いかもしれない。
からころ、からころ。
埋まらない心の空洞のなか、今日も虚しさだけを静かに重ねる。
空恋 #224