闇夜にひとつ、あかりが灯りました。
小さな小さな蝋燭の火です。
暗い世界にひとり取り残されていた少女は、突然照らされた世界に困惑し、その明るさに怯えました。
蝋燭の火といえど暗闇に慣れていた少女にとっては、眩しすぎるものだったのです。
しかし、そのあかりのおかげで今まで見えなかったものが見えてくるようになりました。
黒一色だと思っていた世界は、実は色鮮やかで楽しいものだと気づきました。
その蝋燭の火が少女にとっての幸せだったのです。
そして少女は蝋燭の火の暖かさと明るさに慣れていくのでした。今までずっとひとりぼっちの寒さと暗さが当たり前だと思い生きていたことなんて、忘れていました。
蝋燭の光がふっと消えたのは、それが当たり前になってしばらくした頃です。蝋が切れたのでした。
闇夜の世界にひとり。
火が灯ったときと同じように困惑し、その暗さに怯えました。
それが以前には当たり前だったのに、です。
幸せを知ってしまったからには、闇夜の世界が当たり前だと思っていたときのように生きていくのは無理でしょう。
少女は今日も、暗闇のなか寂しさと哀しみと絶望を抱えながら心で泣いています。
当たり前がこんなにも辛く感じるようになるなら、最初から幸せなんて知らなくてよかったのに────、
─キャンドル─ #118
未来の自分にとっての想い出を生きている。
─たくさんの想い出─ #117
大雨で早足の帰り道。
ダンボールの中で縮こまってた子猫に足が止まったのは、なんとなく自分と重なって見えたからだ。
自分の存在をアピールして助けを求めようともせず、ただただ刺すような雨の下、小さくなっていた。
なにもかもを諦めて、苦しみに打たれて、死ぬことしか頭にはない。
俺はその日、何を思ったのか、気づいたらその子猫をそっと抱き抱えて足早にアパートを目指していた。
─子猫─ #116
いえなかった。また会いたいなんて、言えそうもなかった。
「ん?どうしたの?」
きみがこっちを覗き込んでくるのがわかった。
わらえ、笑え。
得意でしょう?涙を、感情を、圧し殺して仮面を張り付けるのは。
それが唯一の特技でしょうが。
「ううんっ、なんでもない。心配かけちゃってごめんね」
言いながらこころのなかで嘲笑を漏らす。馬鹿だな。心配かけちゃってごめん、なんて。きみは心配してるわけじゃないのにね。もう会うこともないだろうしすぐ忘れられるからこそさらっと吐いた。
「...またそうやって嘘つく。嘘っていうか強がりかな」
「......」
ほら、見抜いちゃうんだ。
そしてそのきっかけだけで、また会いたいとか思っちゃう僕は酷く単純なのだろう。
「......あの、ね」
「うん、なぁに?」
きゅっと袖を握った僕に、一瞬少し驚いたような顔をしてふわりと砂糖菓子がとけるように笑った。
「また、会えたりする、かな」
「...! もちろんだよ。そのための連絡先でしょう?また会おう」
そう言って、きみはさっき連絡先を交換したばかりのスマホを片手に、今日はじめて見せる顔ではにかんだ。
─また会いましょう─ #115
(また書けなくなってる)
得も言えぬ高揚と安心と快楽。
一度味わったらそのスリルに溺れていく。
無意識のうちに自傷を繰り返す毎日。
水を飲む感覚と同じように繰り返したリスカの跡。
苦しくて逃げ道が見えなくなったとき、最後の最後に残る希望が死なのだと思う。
未来の選択肢が削られて削られて、生きていくという選択肢すらつらくなる。
そんなときにほんの少しのスリルを効かせたそれに、中毒のように溺れていくのだ。
─スリル─ #114