得も言えぬ高揚と安心と快楽。
一度味わったらそのスリルに溺れていく。
無意識のうちに自傷を繰り返す毎日。
水を飲む感覚と同じように繰り返したリスカの跡。
苦しくて逃げ道が見えなくなったとき、最後の最後に残る希望が死なのだと思う。
未来の選択肢が削られて削られて、生きていくという選択肢すらつらくなる。
そんなときにほんの少しのスリルを効かせたそれに、中毒のように溺れていくのだ。
─スリル─ #114
自由に空を飛ぶことなんて、できやしない。
空を自由に飛ぶように、生きたいように生きていける人というのは、翼を作るときに限りなく誤りが少なく作られた、ほんの一握りの人たちだけ。
私たちは今日も、壊れた翼を背負って生きている。
本来それは自由になるための道具なのに、私にとってはそれは余計なお荷物でしかない。
役割を果たさない翼は、叶うはずもない淡い希望をちらつかせてくる。
翼だということに変わりはないのだから、いつかは飛べるんじゃないか、と。飛べるはずのない、壊れているお荷物な翼なのに。
それって酷く残酷だ。
飛べない翼を私たちにつけるくらいなら、
空を仰がせて、飛ばせる気なんて更々ないのなら、
いっそ空を降らしてくれ。
─飛べない翼─ #113
(お題見て真っ先に思い当たったのは、そらるさんの“ツギハギの翼”でした。そらるさんのかく歌詞って綺麗で、すっと心に入ってくるし、なにより聴いていて落ち着くんだよなぁ)
昔言い聞かされた、言い聞かせた言葉が今日も私の呼吸を薄くする。
“努力すれば報われる、報われない努力はまだ努力とは呼べない”
努力して、頑張って、頑張って。
そんなときに言われた「頑張れ」。
ねえ、もう十分頑なに張ってるよ。限界なの。なのにさらに壊れるまで頑なに張り続けろって、当たり前に使ってるようだけどさ、ちょっとふざけんなって思っちゃったな。
意味がないと分かっていても自分を守るために、自分を消さないために、努力して。
最終的には自分で「頑張れ」って追い詰めて、生きてることを許されたいがために自分を殺して。
意味がない。意味がないの。
こうして唱える「頑張れ」の呪文も、自分を殺しているのも、惰性で繰り返す呼吸も。
意味がないんだよ。
─意味がないこと─ #112
いっそのこと、突き刺すように鋭い雨にしてくれれば。
柔い雨は遠くから静かな音を連れてくる。
冷たい雨粒が髪を伝う。雨の冷たい感覚すら、なくなってきてしまいそうだ。
ははっと嘲笑が漏れる。
ああ、わかってたのにな。
どうせこうなるなら、雨がふるなら、突き刺すように鋭い雨にしてくれればよかった。
───ねえ、知ってる?
「ゆう...! こんなとこにいた...!」
雨で汚れることを厭わないような雨を弾く足音。
勢いあまって腕に絡み付いてきた暖かい体温。
果てしなく続いていた空を遮断した淡い色の傘。
「冷たっ、風邪引くって...。...なにがあったの?...なんて聞かないけど、聞けないけど、俺はゆうの味方ってことだけ覚えといて、ほしい」
真っ直ぐに見つめてくるきみの視線が怖くて、また目を逸らす。
───その優しさがいちばんつらいんだよ。
無邪気な太陽を向けられる、醜い感情にまみれた人間の気持ちなんか、...知らないね。
いっそのこと、突き刺すように鋭い雨にしてくれれば。
─柔らかい雨─ #111
鏡の前で、数秒。
寒さでぼんやりとしていた頭は、それで瞬時に冴えてしまうから嫌気が差す。
くしゃりと髪を乱して、肺に冷たい空気を送り込む。
…これがいつまで続くのだろう。
双子の弟との最後が嫌でも脳裏に焼き付いて離れてくれない。
もう会えない可能のほうがずっと高いのに。
俺と双子の弟は鏡に写したかのようにそっくりだった。
鏡の中の自分を見るといつも双子の弟を思い出す。
性格は正反対。
だからこそ小さな頃から惹かれ合うのは、ごく自然なことだった。
ふたりでいることが当たり前だった小学時代。
弟との初めてをいろいろと知ってしまった中学時代。
弟とのことが周りに知られて、引き離された高校時代。
壊された人生。
「はやく忘れたいってのに...」
いつだって閉じ込められる鏡の中だ。
─鏡の中の自分─ #110