忘れたくても忘れられない。
金木犀がつれてくる、甘くて切ない想い出。
あの日、僕が先輩にたった二文字だけ返していたら。
あのとき、ちゃんと引き留めておけば。
金木犀の香りは甘い想い出ばかりのはずなのに、それは同時に梅雨の苦しい思い出まで連れてくる。
忘れたくても忘れられない。
…ううん、ちがうね。
忘れたいのに、忘れたくなくて、ぐちゃぐちゃになる。
あの梅雨の日を思い出すから苦しい。なら、先輩とのことぜんぶぜんぶわすれたい。
でも先輩と過ごした金木犀の季節は確かに色鮮やかで、わすれたくない。
先輩。
僕はもう、先輩のいない世界でどう生きればいいのかわからないんです。
─忘れたくても忘れられない─ #97
(トラウマ的な忘れたくても忘れられない思い出がよぎったときには、あーしにたい、と呟いてむりやり記憶に一時的な蓋をしています。よくはないことだとは分かってるけど、これが一番効果あって楽になるんだよなぁ)
きっと僕にはこれくらいがちょうどいい。
真昼の太陽より、真夜中の月。
あまりにもまぶしいと僕の汚い部分が浮き彫りになる。
夜は僕の汚い部分も見えなくして、やわらかな光で包んでくれるから。
もともと月もない真夜中の街で生きていた僕だ。
きみが月になって僕をいつの日からか優しく包んでくれた。
例え、これが許されない恋だとしても、僕はきみがいないと呼吸もままならないんだ。
─やわらかな光─ #96
気づいたときには、その鋭い眼差しに捕らわれていた。
埋まらない。足りない。満たされない。
僕を、僕だけを、その鋭い眼差しで射抜いて離さないで。
─鋭い眼差し─ #95
(最近歪んだ愛にハマってしまいました。他で書いていた短編がどんどん歪んだ狂愛になっていってしまい、書くのは楽しいんだけども、締め方が…ってとこです)
ここじゃないどこかへ。
高ければいいの。
希望も持たせてくれないくらいに高ければ。
鬱陶しいネオンの明かりは眠らない夜の街を無理にでも照らすものなのだと。
荒い呼吸のまま、とあるビルの屋上へ。
覗き込んだネオンの街は、高いところから見るとぞっとするほど暗かった。
「…ストップ」
覚悟を決めて、柵にかけた手。
背後から響いた声にいとも簡単に止まってしまった。
なのに。
あの日、俺をこの世界に繋ぎ止めたのは彼なのに。
────そんな彼は今日も目を覚まさない。
なにが、俺の分まで生きろ、だ。
俺が生きていた意味は彼だったんだ。
あんたがいなくなった世界なんて生きる意味もない。
あの日と同じように高いところを目指して走った。
あの日と違うのは、ぽっかりと空いた心と、柵に手を掛けても彼の声が聞こえてこないことだ。
─高く高く─ #94
生きる意味は、あるのだろうか。
最近そう考える時間が前よりも増えた。
望んでもないのに作り出されて、時間になったら有無を言わせず死んでいく。
じゃあ生きる意味なんてどこあるの。
笑い方はとうの昔に忘れた。
泣き方も知らない。
ただ無感情で無意味な呼吸を繰り返すばかり。
ああ、知らぬ間に空いた心の穴が痛い。
子供のように、なんて。
それができたらどれほどいいだろう。
─子供のように─ #93
(久しぶりにちょっと息抜き。こうやって発散できるから自分が保ってるようなもんだなぁ。個人的には、誰もいない海へ思うままに叫んでる感覚に近いです)